冴えないケータイ販売員から、一夜にして世界的大スターになったオペラ歌手ポール・ポッツの奇跡の大逆転劇はおそらくご存知だと思われる。
実はもうひとり、“黒いポール・ポッツ”ともいうべき黒人のオペラ歌手がいることをご存知だろうか……?
━━アメリカ中西部に位置するミズーリ州サイクストン。1975年、ニール・E・ボイドは白人の母エスターと黒人の父マイケルとの間に生まれた。
しかし、間もなくして父親が蒸発し、シングルマザーとなったエスターは休みもなく朝から深夜まで必死に働き続けた。
やがて、ニール少年の身にも不幸が起こりはじめる。
白人の子供たちにまじってラグビーをするニール。そのとき、白人の少年に後ろから故意に押し倒される。
地面に倒れ込むニールを白人の子供たちが嘲笑う。
「ケケ、黒いから地面とまちがえたぜ」
ニールは黒人という理由で過酷ないじめにあっていたのだ。
実はサイクストンは人口の9割が白人の地域。南北戦争以来、根強い黒人差別が続いていた。そのため黒人と結婚したエスターは、両親と絶縁状態になっていた。
エスターは当時を振り返っていう。
「家の周りの住人は白人ばかりでした。かといって黒人地域に行っても、白人の私とハーフの私ではやはり差別される。私たちは完全に孤立していました」
……部屋の片隅で膝を抱えてむせび泣くニール。彼はエスターに問いかける。
「どうしてボクの肌はママみたいに白くないの?」
そんなニールはエスターは厳しくいった。
「ニール、泣いていてもなにも解決しないわ。見返してやりなさい!」
差別に負けず強く生きていってほしい━━厳しくもあたたかい母の愛に包まれてニール少年は成長していった。