ついにはじまった親子ふたりきりでの新生活。しかし、ハインズ・ウォードにとっては当惑の連続であった。
靴を履いたまま部屋に上がるハインズ・ウォード。そんな彼にキム・ヨンヒが声を飛ばす。
「ハインズ!靴を脱いで入るのよ!」
ぽかんとした表情のハインズ・ウォード。韓国とアメリカの文化・生活様式のちがいの壁に直面した瞬間だった。
その日の夕飯の席。ハインズ・ウォードは目の前に出された韓国料理に戸惑ってしまう。そんな彼にキム・ヨンヒはいった。
「出されたものはちゃんと食べる。それからいつも謙虚に、人がしてほしいように人と接するのよ。いい?」
韓国式の教育などではじめは戸惑ったハインズ・ウォードだったが、月日がたつにつれ自分が母にどれだけ愛されているかを感じるようになったという。
暮らし向きは相変わらず楽ではなかった。しかしキム・ヨンヒは養育費はおろか、政府からの生活費なども一切受け取らなかったという。誰の力も借りず、1日16時間の労働にくわえ、家事や子育てに追われる毎日。
ある日の夜、仕事から帰ってきたらキム・ヨンヒはソファの上で眠っているハインズ・ウォードを見つけ、その体に毛布をかけてあげた。息子の無邪気な寝顔を限りなくやさしく微笑みながら見つめるキム・ヨンヒ。愛する息子と暮らせるだけで幸せだった。
が━━。
ある日の学校でのこと。ハインズ・ウォードに向かってクラスメートたちが罵声を浴びせる。
「おまえのかあちゃん韓国人!」
「混血児!混血児!」
ハインズ・ウォードは混血児という理由で学校でいじめにあっていたのだ。
一方、キム・ヨンヒもショッキングな出来事にあっていた。
家で友人の韓国人女性と話をしていたときのことである。
「紹介料の件だけど、仕事を続ける限り毎月払ってね」
「え!?最初だけのはずじゃ……」
すると女は急に表情と口調に怒気を含み出した。
「なにいってるのよ!誰のおかげで働けたと思ってるのよ!いい?毎月払うのよ!」
同じ韓国人であり、唯一心の許せる友人だと思っていた人物に、キム・ヨンヒは利用されていたことを知ってしまった……。