2009年8月中旬、医師に『あと半月もつかどうか……』といわれたあのとき、実はキム・ヨンギュンは最後にできるただひとつのことを考えていた。
病院の廊下のソファに座るキム・ヨンギュンとチャン・ジニョンの両親。そのとき、チャン・ジニョンの両親が『えっ!?』と驚きの声をあげる。
「ヨンギュンさん、あなたは娘を幸せにしてくれました」チャン・ギルナムはいう。「でも、もう充分です。もっとご自分のことを考えてください!」
しかし、キム・ヨンギュンの決意は変わらなかった。
……病室。キム・ヨンギュンはベッドの上のチャン・ジニョンにいった。
「これにサインしてくれないか?」
彼がチャン・ジニョンに見せたのは婚姻届だったのだ。しかしチャン・ジニョンは返事に困る。
「これは……ダメよ……できない……」
「どうして?僕の妻になってくれるんじゃないのかい?」
数日前━━キム・ヨンギュンはチャン・ジニョンとの入籍のことを友人に打ち明けた。しかし友人は賛成はしてくれなかった。
「本気か?あとあとトラブルのもとになるかもしれないぞ!」
「ジニョンのためなんだ」
「よく考えろ。ラスベガスで式をあげたじゃないか。それだけで充分じゃないか!」
反対する友人にキム・ヨンギュンはいった。
「ちがうんだ。たったひとりで旅立とうとしているジニョンを夫として送りたいんだ」
━━ベッドの上のチャン・ジニョンはいう。
「ダメよ。私が良くなったら家族や友達に見守ってもらって、ちゃんと披露宴をして……」
「いや、すぐにでも君と夫婦になりたいんだ。僕の妻は君しかいない」
「私なんかのどこがいいの?」
「全部だよ」
チャン・ジニョンの右目から一筋の涙が落ちる。
「なにもしてあげられないのに……」
「君は僕に愛をくれた」
「本当にいいの?あなたの奥さんになっても?」
それからチャン・ジニョンはキム・ヨンギュンの用意した婚姻届にサインをした。キム・ヨンギュンは当時を振り返っていう。
「医師にはもう鎮痛剤を打つ以外できることがないといわれました。でも、僕にはしてあげられることがある。妻として送り出してあげたいと思ったんです」
2009年8月28日、こうしてふたりは名実ともに夫婦となったのだ……。
キム・ヨンギュンはベッドの上のチャン・ジニョンに語りかける。
「今日から君は正式に僕の奥さんだよ」
そんな彼にチャン・ジニョンは小さく微笑んでいった。
「フフ、私の旦那さん」
それはチャン・ジニョンが見せた最後の微笑みであった……。
そしてキム・ヨンギュンの妻になって4日後、チャン・ジニョンは天国へと旅立っていった。キム・ヨンギュンと過ごした日々。それは彼女が最後に手にした安息の場所だったのかもしれない。
キム・ヨンギュンはいう。
「僕は彼女の夫であることを誇りに思います。次に生まれ変わっても必ずジニョンと一緒になりたい。みんなが100年かけて愛し合うとしたら、私たちはすべての愛を1年半でやり遂げたのだと思います」
韓国スター女優 純愛の記録 終わり