2009年1月、チャン・ジニョンの2度目の抗ガン剤投与がはじまった。しかし、それは想像を絶する苦しみをともなった。
ある日、あまりの苦痛にチャン・ジニョンは病院のベッドから落ちてしまう。それを見舞いにきていたキム・ヨンギュンが目撃する。
「ジニョン!大丈夫か!?」キム・ヨンギュンはチャン・ジニョンのそばに駆けつけ、背中をさすりながらいった。「僕が代わってあげられたら……」
そんなキム・ヨンギュンにチャン・ジニョンがか細い声でいった。
「……つらいでしょう?私のこと見てるの。つらかったら別れてもいいんだよ……」
「なにいってるんだ!そんなこと……」
「これから髪も抜けるし痩せてくし、こんな姿であなたに愛してなんていえない……」
言葉につまるキム・ヨンギュン。
「ジニョン……」
彼は当時を振り返っていう。
「ジニョンは僕を気づかい、別れをいってきたんです。……彼女につらい思いをさせてはいけない。ぜったいに守ってあげようとそのとき心に誓ったんです」
━━ふたりきりの病室。痩せ衰えたチャン・ジニョンをキム・ヨンギュンは強く抱きしめながらいった。
「ぜったい良くなるから、僕がそばにいるから」
しかし━━5月末には腎臓など、ほかの臓器への転移が認められた。それからキム・ヨンギュンは仕事の量を減らし、少しでもチャン・ジニョンと一緒にいられるようにしたという。
━━むかえた6月14日、チャン・ジニョンの誕生日。ふたりはその日、はじめて出会ったカフェバーに訪れた。チャン・ジニョンはショートカットのかつらをつけ、病人とは思えないほど美しく装っていた。
一方、キム・ヨンギュンはチャン・ジニョンには内緒にとある計画を立てていた。
バーの奥の人気のない場所に進むふたり。そしてキム・ヨンギュンがカーテンを開けた瞬間だった。
「ジニョン、おめでとう!」
なんとチャン・ジニョンの友人たちが待ち構えてクラッカーを鳴らしたのである。キム・ヨンギュンはいう。
「これが最後の誕生日になるかもしれない。だったら最高の誕生日にしたいと思い、サプライズのバースデーパーティーを開くことにしました」
パーティーは終わり、ふたりきりになるチャン・ジニョンとキム・ヨンギュン。そのとき、キム・ヨンギュンがポケットから1枚の紙を取り出した。それはチャン・ジニョンへの手紙であった。それを読み出すキム・ヨンギュン。
ジニョンへ。僕たち、出会った1年半が過ぎましたね。長い時間ではなかったかもしれないけど、君は愛と幸せをたくさんくれました。
僕は君との人目を忍ぶデートでもすごく幸せでした。まるで世界のすべてを手に入れたようで、君が恋人だってことをみんなに自慢したい気分だった。すべてが美しい時間でした。
この9ヶ月、治療を受けている君を見ていました。髪の毛が抜けても、薬が体の力を奪っても、いつも毅然としていましたね。そんな君を見るたび、チャン・ジニョンはなんてすごい女優なんだと思いました。
僕はこれからすべてをかけて君を愛し、守り、君の力になる、最後までそばにいる。
そしてキム・ヨンギュンはそっと指輪を取り出していった。
「ジニョン、結婚しよう」
次の瞬間、チャン・ジニョンは泣きながらキム・ヨンギュンの胸に飛び込んだ。
「ありがとう、嬉しい……」