━━物語の主人公、ジョン・ウッド━━彼は1964年にアメリカ・コロラド州に生まれる。幼い子から成績優秀で、大学院在学中にMBAを取得。終了後は世界一のコンピューターソフト会社に入社し、海外マーケティング部門において幹部に抜擢される。そんなジョン・ウッドの年収は34歳にして5000万円に達していた。
━━入社7年目の1998年、オーストラリアに赴任していたジョン・ウッドは長期休暇を取得し、趣味のトレッキングをおこなうべくネパールを訪れていた。
ネパールのとある村の飲食店。席についているジョン・ウッドにひとりの少年がビールビンを持ちながら駆け寄ってくる。
「はい、ビールです」
しかしビールはあまり冷えていなかったので、ジョン・ウッドは少年に『冷たいのあるかな?』とたずねた。
すると少年は『3分待ってて』といい残してビールビンを持って遠くへ駆けていった。そして彼は雪解け水の流れる川でビールビンを冷やしはじめた。
そんな少年を見てジョン・ウッドが店の主人にいった。
「まだ子供なのによく働くな。しかも気がきく」
「もともと向学心旺盛なんです。でも……」
なぜか顔を曇らせる主人。そこに少年が戻ってくる。
「はい、ビール」そして再び遠くへ駆けていった。
そんな少年の背中を見ながら主人はため息まじりにつぶやいた。
「あの子も小学校を出たら働くことになるでしょう……」
翌日、ジョン・ウッドは地元の小学校を見学することになった。
ふたりの教師に校内を案内されるジョン・ウッド。
「ジョンさん、ここが教室です」教師はそういって教室のドアを開けた。
教室内をのぞくジョン・ウッド。その瞬間、彼は言葉をなくした。
教室の床はなんと土をかためただけのもので、あとは黒板と机があるだけの有様。教室と呼ぶにはあまりにみすぼらしい施設であった。
さらにジョン・ウッドは驚愕に襲われることになる。
とある一室に招かれるジョン・ウッド。彼は教師たちにたずねる。
「ここはなんの部屋ですか?」
そんなジョン・ウッドに教師が答える。
「ここは図書室です」
耳を疑って聞き返すジョン・ウッド。
「ここが!?」
がらんとしたその部屋には本などほとんどなく、かろうじてバックパッカーたちが置いていった本が数冊あるだけ。それも貴重だからと戸棚にしまわれて鍵までかけられていた。これでは子供たちが本に触れられる機会などない。幼い頃から読者好きだったジョン・ウッドには信じられない光景だった。
唖然として立ちつくすジョン・ウッドに教師たちがいう。
「ジョンさん、よかったらこの学校に本を寄付してもらえないでしょうか?」
「このままでは子供たちに本を読ます週間を持たせなくてもどうにもなりません」
「はぁ、しかし……」言葉につまるジョン・ウッド。
「我が国では教育環境が行き届いていない。きちんと教育を受けられなかった子供たちは大人になってもつける仕事が限られてしまう。そんな悪循環から抜け出せないんです」
「童話や図鑑、なんでもいいんです。今度くる機会があったらぜひお願いします!」
懇願する教師たちに戸惑いながらもジョン・ウッドはいった。
「はぁ……じゃあ……英語の本でもいいですか?」
「それで充分です!」笑顔を爆発させて喜ぶ教師。「ネパールでは小学1年のときから英語を教えていますから!」
「助かります。ありがとう」
そんな彼らにジョン・ウッドは困惑を隠せなかった……。
人も羨むエリート人生をおくってきたジョン・ウッド。そしてたまたま訪れたネパールで出会った別世界で生きる人々……。
しかし、彼らとかわした約束が、やがて世界を変えるきっけかになるのであった。