第2次世界大戦中、ナチス・ドイツに捕らえられた1200人のユダヤ人を救ったシンドラーは有名だが、なんと2500人ものユダヤ人を救ったシンドラーならぬ“センドラー”なる人物がいたことをご存知だろうか……?
━━1999年9月、アメリカ・カンザス州のユニオンタウン。物語は人口300人ほどの小さな町のとある高校ではじまった。
「メーガン!」
学校の帰り道、ひとりの少女が先を歩く友人の名を呼んだ。彼女の名はエリザベス・キャンバース。
「あなた、歴史コンテストに出るんでしょ?一緒にやろう!」
そんなエリザベスにメーガン・スチュアートが足を止めていう。
「エリザベス、本気なの?」
「おもしろそうだし、退屈しのぎにいいじゃない」
全米歴史コンテストとは35年の歴史を誇り、小学生から高校生が独自に調べた歴史の研究成果を競い合う大会である。ユニオンタウン高校では以前から社会科のノーマン先生が勧めていたので、生徒たちはみんな興味を持っていたのだ。
かくしてエリザベス、メーガン、それからジャニス・アンダーウッド、サブリナ・クーンズの4人で参加することがきまった。
まずは研究テーマをきめるため、4人は学校の図書館でノーマン先生が集めた記事に目をとおすことにした。
そのとき、エリザベスがとある新聞記事に目を落としながら叫んだ。
「メーガン、研究テーマはこれできまりよ!」
それはスティーヴン・スピルバーグ監督の映画≪シンドラーのリスト≫が公開された直後の新聞記事で、シンドラー以外のユダヤ人を救った人物数人について触れられていた。
オスカー・シンドラーといえばポーランドでみずからの命をかけ、1200人のユダヤ人を救出した偉人として歴史に名をとどめている。そのシンドラーが活動した同じポーランドの地で、また別の人物もユダヤ人救出のために活動をしていたという記事が載っていたのだ。それを見たエリザベスがいう。
「このポーランドの女の人すごくない?2500人ものユダヤ人の子供を助けてみたい」
2500人━━その数、実にシンドラーが救ったユダヤ人の倍以上。記事の内容は本当なのだろうか?ちなみにその2500人のユダヤ人の子供を救ったとされている人物の名は“イレーナ・センドラー”といった。
翌日、エリザベスたち4人はノーマン先生に聞いてみることにした。
「ああ、この記事なら覚えているよ」ノーマン先生はいう。「ただ、誇張されているか、数字の印刷ミスかなにかだと思ってね……」
「どうしてですか?」メーガンが質問する。
「イレーナ・センドラーという名前は聞いたこともないんだ。こんなに助けているのに知られてないなんて不自然だろ?」
4人はため息をもらした。歴史の専門家であるノーマン先生が知らないなら真実味はなさそうだった……。
しかし、落胆の4人にノーマン先生が声をかける。
「おい、そうすぐにあきらめるな。興味を持ったら調べてみるべきだと思うがね」
「嘘っぽいのに?」エリザベスがいう。
「まずは調べてみる。歴史を研究するってことはそういうことだよ」
そういうノーマン先生にメーガンが返事をした。
「わかりました、先生」