「デューイ、また明日ね」利用者の女性たちが笑顔でデューイに別れを告げてスペンサー図書館をあとにした。
すっかり図書館の一員として認知されたデューイではあったが、まだまだデューイの存在を好ましく思わない利用者も多くいた。
就職情報を閲覧している失業者のもとにデューイは近づいていったのだが、失業者の男性は『あっちへ行け!』というふうにデューイを手で追い払ってしまった。
さらに図書館に次のような電話がかかってきたのである。
「うちの娘はアレルギーなんです。図書館で猫を飼うのはやめてください」
……デューイを図書館で飼い出してから1週間がたったが、徐々に苦情が寄せられるようになっていた。
実は1年前、ニューヨークの図書館でスタッフが重度の猫アレルギーを発症し、猫が追放されるという事例があったのだ。
ヴィッキーはさっそく内科医に図書館を検査してもらった。するとスペンサー図書館はアレルギーの原因になる抜け毛がたまりにくい構造らしく、衛生上問題がないと診断された。
さらにヴィッキーは利用者を不安にさせないようにするべく、デューイに対して去勢、爪抜き、ワクチン接種など万全をきした。
が、ある日のことである……。
スタッフの女性が動揺した様子でヴィッキーのもとにやってきた。
「館長、これを見てください!たいへんです!」
そういって渡された手紙を見てヴィッキーは強いショックを受けた。デューイのことをよく思わない市民からの苦情や脅迫の手紙だったのである。
その手紙を市議会に持ち込むと、市議会議員はヴィッキーに対して激昂した。ヴィッキーはため息まじりにつぶやく。
「中には猫嫌いの人もいるでしょうけど、なにもこんな手紙送りつけなくても……」
しかし議員の怒りはおさまらない。
「子供に危険が及んでからでは遅い。猫をすぐ処分しろ!」
ヴィッキーはそんな議員を説得するべく、図書館に連れていってデューイを見てもらおうとした。
「デューイはそんな乱暴な猫ではありません。会えばわかるわ」そしてヴィッキーはデューイの名を呼ぶ。「デューイ、デューイ」
そのとき、車椅子に乗った障害者の少女が近寄ってきた。彼女を見て議員がさらに息巻く。
「障害者だって利用しているんだ。もし市が訴えられたらどうするんだ!今度くるときまでには追っ払っておくんだぞ!」
そういい残してぷんぷんと図書館を立ち去ろうとする議員をヴィッキーは呼び止める。
「ちょっと待ってください!」
しかし聞く耳もない議員は図書館から出ていってしまった。肩を落として失意に陥るヴィッキー。やはり猫を飼うことはまちがいだったのだろうか……?