掌の中のたった一つの胡桃。

胡桃から、じわ~っと温かさが、伝わってくる。

従兄の想いが伝わってくる。



胡桃




兄のような存在だった従兄は、この胡桃を私に残してくれた。

訃報の知らせに慌てて訪問したその日、従兄の妻が、伝えてくれた彼の想い。



J子に約束したのになぁ。悪かったなあ!

今年は不作らしく、たった一つしか見つからなかった。

届けようにも、たった一つだけじゃな。

仕方ないから、胡桃の木がある場所をJ子に教えておこうか。

そうすれば、今度は自分で探しに行けるもんな。





従兄が、余命1年を宣告されてから、4年3か月。ついに帰らぬ人となった。

あっぱれな生き様だった。

最後の最後まで弱音を吐かず、自分のことは後回しにしても、

周りの人々のことを気遣い、いつも前向きな優しい人だった。



トンボと庭



6月、コテージガーデンのベストシーズンを見たいと言っていた従兄の言葉を思い出し、

今年を逸しては、招待するチャンスは残されていないのでは・・・・・・・

そんな思いから、他の従姉家族や伯母などを誘って、9人のささやかなホームパーティを開いた。

寛いで、皆を笑わせる従兄。一緒に過ごした子供の時の思い出を語り合う。

ゆっくり流れる楽しいひととき。

たまたま飾ってあった胡桃のリースに目が留まった従兄が、



なんだ、胡桃をわざわざ買ってくるのか

たくさん拾えるところを知っているよ。毎日散歩する公園なんだ。

秋になったら、拾ってきてやるよ。

約束だ、待っててくれ。








そんな約束をそういえばしたっけ・・・・・・ 

従兄の妻の話を聞くまでは、すっかり忘れていた約束

従兄は、覚えていてくれたんだ・・・・・守ろうとしてくれたんだ。

守れなかった約束を無念に思っていたんだね・・・・・・。ありがとう。そしてごめんね。

あなたの想いは伝わりました! その想いだけで十分です。 ありがとう。

来年は拾えるかもしれない                

                     とは、言わなかったんだね・・・・・・。

                                         力が尽きる日が近いことを覚悟していたんだね。



話を聞いて、あふれ出す涙が止まらなかった。 






たった一つの胡桃を見つけた日から間もなく、公園までの散歩が無理になり、

やがて、近所のごみ置き場まで行くのも無理になったという。








最後の最後まで、痛みを我慢して、弱音を吐かなかった。

緩和ケア病棟の予約をしていたのに、入ろうとしなかった。

いつまでも愛する家族と共にいることを願った従兄。



 



これ以上家にいたら、家族に迷惑がかかると、

自分から病院に連れて行ってくれと言い出したのが、12月22日午前中。 







入院したから心配はない。大丈夫だよ。みんな安心してうちに帰れ。

今夜は冬至だから、柚子湯にでものんびり入って疲れを取るといい。



心配する家族を追いやるように、帰宅させたそうだ。







俺は、死ぬかもしれない。


12月23日、午前4時前、病院からの緊急連絡。

慌てて駆けつけた家族に見守られて、早朝、息を引き取ったという。

入院して、24時間はまだ経っていなかった・・・・・。







弔問に訪れた日、玄関に飾ってあったシンビジウムとシクラメンの鉢。

従兄から妻への最後の誕生プレゼント。

毎年、結婚記念日と誕生日には、花が好きな妻に1鉢をプレゼントしていたという。


これで最後になるだろうから、今回は特別2鉢な。


と笑いながら、渡してくれたという。



   




従兄は強く、愛にあふれた人だった。

その従兄を支えたのは、家族や妹弟の愛だった。

余命を宣告されてからの4年3か月

家族の愛と絆に支えられ、さらに密度の高い最後を生き抜いた。






ささやかなホームパーティへの招待を心から喜び、

何度も何度も、ありがとう。楽しかった。と言って、帰って行った従兄の姿が目に浮かぶ。

たくさんのありがとうを言いたいのは、わたしです。

小さい頃から可愛がってくれて、ありがとう。

素敵な生き様を見せてくれて、ありがとう。

たった一つの胡桃に込められた貴方の想いをありがとう。

どうぞ安らかに。そして貴方が愛した人々を見守ってくださいね。




従兄 享年65歳 早く閉じた人生だった・・・・・・。





従兄達を招待して、ホームパーティを開いたのは6月9日。

その日、彼が見たコテージガーデンの様子をアップしました。