昨年、十年以上使っていた腕時計がへばってきた。
 ソーラー発電で駆動する電波時計なのだが、2004年5月発売のカシオMRG-2100DJという機種で、同社の「Gショック」と称する製品群の「MR-G」というブランドに属するもの。2針アナログに小さなデジタル表示窓が4つ設けられていて、秒やデイデイトなどは、そのデジタル小窓に表示するタイプだ。

 どうやら、ソーラーパネルで発電した電気を蓄えておく二次電池が寿命を迎えたのが原因らしい。二次電池の「寿命」は7~8年程度と言われており、2004年の後半に買ったことを思えば、良く持ったほうだとは思う。
 フルデジタル機とは違い、アナログ中心で、色も渋めなので、よほどフォーマルな場でなければ違和感なく使え、チタン素材なので軽くて気に入っていた。腕時計マニアではなかったが、随分と長く使っていたものだ。それまでは、3~4年程度で新しい腕時計を買っていたように思う。
 ただし、それまではせいぜい実売2万円程度までの腕時計で済ませていたが、MRG-2100DJは定価で85,000円+税。実売でも6万円ちょっとしたと思うので、このくらい使わないと、元は取れないと思っていた。

 取り敢えずちょっと調べてみたところ、数千円で二次電池交換(とついでに簡単なメンテナンス)ができるらしいので、メーカー送りして交換してもらうことにした。
 その間、同じカシオのGW-500BTJという、やはりソーラー電波時計で代用していたが、こちらはフルデジタル。ただし、反転液晶にケースやブレスも黒色なので、仕事で使っても問題はない。また、同じくチタン製なので軽い。だが、この時計も2004年7月発売で、2005年頃に買った筈なので、そろそろ二次電池はヤバいような気がする。

 また、昨年12月前後には、ある程度まとまった収入があった(要は10月前後に「過重労働」しただけである)ので、この際、ある程度いい時計でも買うか、といった気になった。

 いや別に、時計マニアでも何でもない。
 マニアックにいけば、スイスとかドイツとかの機械式時計が……とか言い出したりするのかも知れないが、工学部電子工学科(のようなもの)出身の筆者としては、(機械工学科ではないからということで)機械式よりもクオーツ式、それも時刻合わせが不要な電波時計のほうが好みではある。勿論、機械式時計の機構に全く興味がない訳でもないが。

 ということで、ここ10年以上、全く見向きもしなかった量販店の時計売場に行き、カタログなども集めてみた。
 一応、ソーラー電波時計が大原則なので、基本的には国産各社。
 これまで長らくカシオユーザーだったが、振り返って考えると、中高生くらいの頃には、シチズンのデジアナとか使っていた。

 で、最近のトレンド?としては、地上局から発信される標準時刻電波ではなく、GPS衛星からの電波を受信し、その衛星に搭載している原子時計による時刻情報を利用するものが「売り」になっているようだ。

 そのGPSソーラー電波時計。シチズンが最初に実用化したが、時刻情報だけを利用するので、現在地のタイムゾーン判定まではしない(最近は、それもできるタイプがあるようだが)。位置情報まで取得して、タイムゾーン判定し、その地点の正確な時間を表示するものは、セイコーが初めて製品化した。
 そして、その衛星からの電波により位置情報と時刻情報を取得すると、大きな電力が必要になるという弱点を補うため、地上の標準時刻電波が受信できるならそちらを優先する「GPSハイブリッドソーラー電波」がカシオから発売された。

 筆者的には、「伝統と品質のセイコー」「技術と精度のシチズン」「機能と価格のカシオ」というイメージを持っているが、「電波時計の時刻表示機能」に特化してみた場合、やはりカシオのものが一番使い勝手が良さそうに思えた。
 海外に行く頻度は高くないが、例えば昨年夏に行ったグアムでは地上の標準電波は受信できない。しかし、一年の大半は国内にいる訳で、地上電波で毎晩時刻を合わせる機能があるほうが効率的だ。

 しかし、店頭やカタログで見る限り、MRG-2100DJと同じ「MR-G」のラインアップの中にはGPSモデルは見当たらない。「MT-G」はフルメタルではなく、しかも金属部分がステンレスなので、やけに重い。オシアナスはフルメタルでスタイリッシュだが、Gショックではないので、耐久性に不安があるし、Gショックのような20気圧防水ではなく、10気圧防水だ。10気圧防水でも、日常生活に支障はなかろうが、気になってしまう。
 グラビティマスター(旧・スカイコクピット)は、価格的にも他モデルより安価だが、いかにもGショック、といったゴツいケースがどうも……。
 そこで、ネットで検索してみたら、MRG-G1000というモデルがあるらしい。ただし、安いモデルでも26万円+税、ブラックモデルは30万円+税というとんでもない金額だった。

 他社のGPSソーラー電波時計が、標準電波に対応していなくて20万円以上することを考えれば、金額的にはわからなくもない、とは思ったものの、それ以上に、市場に流通していない。
 そのうち、量販店などには発売当初にかなり絞った限定数で出荷された上、通常2~3割引で販売されるのが通例の店舗でも定価販売だったらしい。それでも、まだ割のいいポイント還元などがあったためか即時完売し、その後、入荷することはなかった。
 実は、このMRG-G1000は、カシオの中でも最も精密かつ微細な加工に対応する山形カシオの工場で生産される製品で、その中でも限られたスタッフだけで構成される「Premium Production Line」と呼ばれる部署で組み立てられているらしい。このラインでは、オシアナスやMT-Gなどの高価格帯モデルも製造しているが、恐らくカシオとしてはオシアナスなどを前面に出していることと、MR-Gのニーズというか購買層が「薄い」こと、MR-Gの品質、機能、耐衝撃構造という要素などから、そもそもMRG-G2100の製造数はかなり絞られていると思われる。
 特に、ブラックモデルのMRG-G1000Bは、表面の硬化処理の工程が多くなることで手間がかかり、月産30本とか50本とかしかない(これがG1000Bだけなのか、MRG-G1000系全体なのかは不明)、という噂も聞こえてくる。
 そんな状況なので、現状では、入荷先は百貨店や専門店、特約店等に限られているようで、例えばGショックの専門店である筈の「G-SHOCK STORE」などですら、数か月入荷がない、ということも日常茶飯事らしい。

 なかなか手に入らないと言われると、気になってしまうのがマニア気質というモノ。
 税込32万4千円という金額は、ちょっと常軌を逸している気はするけれど、舶来物の機械式時計なら、そのくらいするモノは当たり前にある。そして、多少やりくりすれば(ギリギリだが)どうにかなりそうな金額だ。10年使えば、年間32,400円。1日当たりで100円を切る(かなりの暴論)。

 でもまあ、そんな簡単には見付かるまい。そのうち忘れるか、飽きてしまうに違いない。と、思っていた。

 ところが、たまたま01016:東京中央郵便局……というか、ゆうちょ銀行本店に行った際、その建物の「上」にできた「KITTE」内に、「G-SHOCK STORE丸の内」があったことを思い出し、寄ってみた。
 すると、何と、店の奥のMR-Gコーナーに、MRG-G1000BもMRG-G1000D(シルバーモデル/ベゼル部のみブラック)も陳列されている。流石に、初期限定のG1000DGはなかったが。
 店員から聞くと、つい二、三日前に少しだけ入荷したばかりだと言う。G1000Bの実物を見るのは初めてだったので、ショーケースから出して、見せてもらった。
 確かに、厚みも重さもそれなりにはある。重さに関しては、同じハイブリッド電波ソーラーのオシアナスOCW-G1100などと較べると、かなり重く感じる。しかし、思ったほどゴツくはない。ラグ幅がそれほどないので、腕に着けても、ラグが腕からはみ出すこともない。

 暫く迷ったが、その日の午前中にも1本売れたし、今なら(展示品ではない)在庫があるので、新品で渡せる、と言われ、購入することにした。カード払いなので、未だに実質支払っていないが……。ついでに、この金額だとANAの6,480マイルになる(笑)。特約店でないのが惜しいが。

 普通なら、これで熱が冷めそうなものだが、却って火が点いてしまった気がしないでもない。
 流石にコレクションする気はないが、その後も集めたカタログをたまに見ていて、見てはいけない時計(笑)を見付けてしまった。

 シチズン・プロマスターSKYのJY8025-59E。
 ケース・ブレスともチタン製で、DLCはじめ硬化処理が施されたブラック調モデル。3針アナログベースだが、デジタル表示部を持ち、ワールドタイムはデジタルで1都市、24時制でも表示可能。更に、24時計ながらUTCを表示する小アナログ計も装備しているので、同時に3つの時制を知ることができる。
 ソーラー発電する「エコ・ドライブ」であることは勿論、標準電波も日本2局の他、北米、中国、ドイツ局に対応(残念ながら英国局は非対応)。無反射サファイアガラスに20気圧防水と、相当なハイスペックで、定価は12万円+税。実売価格は8万円台。
 厚みや重さはMRG-G1000Bよりも小さいが、ケース径はほぼ同じくらい。ただし、デジタル表示や周囲の「航空計算尺」もある分、多少ゴチャゴチャ感があり、オンで使うにはイマイチだが、オフで使う分には申し分ない。
 今までも、列車などの乗継が多い時など、24時制のデジタル表示が見やすいGW-700BTJを中心に使用していたが、前述したように、いつ二次電池がお釈迦になるかわからない。
 JY8025-59Eの場合、アナログメインであるが、デジタル表示のワールドタイムも「TYO(東京/日本時間)」に合わせれば、実質的に純粋な「アナデジ」として使用できる。

 ということで、こちらJY8025-59Eは、量販店で購入。税込8万6千円ほどだったが、ポイント利用したので、実際の支払いは7万円ほど(更に7千円ほどポイントが付いた)。
 思わぬ結果となってしまったようにも思うが、この過程で時計の世界の奥深さも知ることとなり、何だか深みにはまってしまいそうな、嫌な予感もしている。

 念のため言おう。
 腕時計は実用品だ。アクセサリーではない!

 ……と、言っておかないと、歯止めが効かない気がする。