この時期になると、子どもたちは次の学年に向けて、意欲を新たにしているのではないでしょうか。
中でも6年生は、4月から中学年代という小学生とは全く違った環境に飛び込むことになります。
ジュニアユースクラブ、中学校のサッカー部と所属チームはそれぞれ異なるものの、試合や練習に親が付き添う当番などの役目はほぼなくなります。まさに保護者の皆さんの手を離れて独り立ちする第一歩です。
中学入学までに家庭でできる準備を、育成年代の指導歴30年の池上正コーチ(I.K.O市原アカデミー)にお話を聞いてみました。
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第1話 厳しい親になる
~転ばぬ先の杖を用意しない・段取り力をつける・「我が家の決まり」をつくる
12歳から13歳へ。たったひとつ年齢が違うだけで、サッカーも学校環境もガラリと変わるのがこのカテゴリーです。特に初めてのお子さんを中学に送りだす保護者の方は、不安もおありでしょう。ですが、大きな変化への対応は子どもが大きく成長するひとつのチャンスです。親がネガティブにとらえずポジティブに構えていれば、子どもも前向きにチャレンジできます。
その準備段階での大きなテーマは、「自立」です。中学になると、試合への親の引率もなくなり現地集合。練習は多くのクラブが夕方から夜間になり、学習との両立や生活面で自己管理する能力が問われます。重そうなエナメルバッグを抱え満員電車で立っている子、夜遅くに自転車を飛ばして帰宅する中学生を近所で見かけませんか。「大変そうだな」と少々同情することもあるでしょう。この春からお子さんは、まさにその「大変そうな子」になるのです。
ですが、「大変そう」「かわいそう」と感じて過度に世話をしたり、手を貸すのはやめましょう。自分で計画を立てて生活時間を調整する段取り力や自己管理能力は、サッカー選手としてパスやドリブルの技術以上に大切なこと。今から中学入学までの数カ月間、日常生活やサッカーに対する姿勢などを家庭で見直してほしいと思います。
まず、わが子に対して厳しい親になってください。
「うちはすでに厳しいです! 私はいつも怒ってます」「うちのパパは鉄拳もふるいます!」。厳しい親というとそんな答えが返ってきそうですが、一から十まで子どもの行動を叱ったりげんこつを繰り出すのは、私のいわんとする厳しさではありません。
では、厳しさとはどんなことなのか、説明しましょう。以前にもこの雑誌で何度か話をしたことがあると思います。
私はジェフ時代、ジュニアユースのチームを指導している時期がありました。ミスをすれば「次はどうしたらいい?」と選手に聞き、運動量が足らなければ「今日は走れていたかな?」と問いかける。選手の気づきや考える力を引き出すのが私の指導スタイルです。ですから、怒鳴ったり、試合に負けたから罰走させたりといった指導は一切しませんでした。
ある日、ひとりの選手のお父さんが、私のところにやってきました。息子を小学生のクラブで教えていたサッカー経験者でもあるその方は、こう言いました。「池上コーチ、どうして子どもを叱らないのですか? もっと厳しくしてほしい。もっと怒ってもらわないと伸びません」。お母さんも言いました。「そうですよ。厳しくしてください。うちの子は小学生の頃からコーチに殴られても、蹴られても、向かっていける子ですから」
私は苦笑しつつ答えました。「いえ、私は自分では日本一厳しいコーチだと思っていますよ」
例えば、私が問いかけたことに対して、自分で考える、工夫する、粘り強く何度もチャレンジする。そんなアクションの起こせない、自立できていない子は、その時点で伸びる要素の少ない選手です。子どもも変わっていきますから、私も粘り強く待ちますが、例えば「怒鳴られないと走れない」というような選手では困ります。選手は自分で考えて行動できないといけません。そういった意味で、私は「日本一厳しいコーチ」なのです。
ですが、その保護者の方にはあまり理解してもらえなかったようです。
その子は試合が終わると、私の前に集まる仲間のほうではなく、自分の父親のほうへ真っ先に走っていました。お父さんから叱られたり、指示を受けていました。私はその子を呼んで「君はどこのサッカーチームに所属しているの? ジェフかな? それともお父さんのサッカークラブにいるつもりなら、ジェフにいなくていいよ」と話しました。子どもは「ジェフです」と顔をゆがめて答えました。
そのように、親が過度に干渉しすぎて、子どもの判断力や自立するための成長を阻んでいるケースが多すぎるような気がします。子どもを自立させるためには、手を貸さない厳しさが必要です。
そのためにも、生活の中で自己管理できているかどうか、家庭で見直してみてください。例えば、こんな話があります。都内で強豪といわれるクラブで、自分のバッグをのぞきこんで「あれれ、お母さんたら、ユニホーム入れ忘れてるよ。マジ頭くる!」という子がいたそうです。その家庭では、練習でも試合でも、ユニホームやすね当て、スパイクなどを準備してバッグに入れるのはお母さんの役目なのでしょう。
いかがでしょうか。このような干渉を受けている子どもが、プレーを自分で修正したり、チームのために献身的に走ったり、仲間を鼓舞するようなコーチングができるようになるとは私は思えません。
当たり前のことなのですが、小学生の間に自分のことは自分でやる。自分でできることをどんどん増やしてください。サッカー以外では、自立起床など生活時間の段取りも任せましょう。学習時間も自分で決める。学校の調べ学習があれば、自分で図書館に行く。それらを子どもが拒むようであれば、自立することの大切さを教えてください。例えば、「ほかの子は駅まで車で送ってもらってるよ」と言えば、「歩いていくのがうちの決まりだから」と言えばいいのです。「わが家の決まり」としてしまうのもひとつの方法です。
とはいえ、これまで手を貸してきたのなら、最初は失敗もあるでしょう。自分で起きられずに寝すごしてしまう日もあるはずです。人間ですから誰でも失敗はある。お母さんが起こしてあげたのなら「今月は5日起こした日があるね」と事実のみを伝えます。そこからどう工夫して自分で起きるようになるか、そのプロセスこそ子どもの成長。何よりも、親が自分の自立を願っているという事実を子どもが認識することが重要なのです。また、切符を買って自分で電車に乗ってみる。路線を覚えるといった作業もひとつの準備になるでしょう。