鬼魅(きみ)の悪い笑い声が聞こえてくる
早々に立ち去ろうと扉の方を振り返る。
すると、扉がきいと開いた。
……誰だ。
鬼魅(きみ)の悪い笑い声が聞こえてくる。耳障りで不快な声だ。
「へへ、へへへへ……。何か……楽しそうな音が聞こえたぞぉ」
部屋に入って来たのは屍鬼(ゾンビ)のような男。細身ながら高い背、だらしなく肌蹴(はだけ)た開襟シャツ、胸元に覗く角の生えた悪魔の刺青(タトゥー)。
そして死人のような灰色がかった肌、だらだらと涎(よだれ)を垂らす半開きの口、焦点の合わないぎょろりとした目。
間違いなく薬物中毒者だ。
この男も用心棒なのだろうか。そうだとしたら残念な事だが雇い主は死んだ、この薬中男に報酬を払う物は誰もいない。
男はへらへらと笑いながらねっとりと纏わり付くような視線を鴉に向けている。
「オレも混ぜてくれよぅ……」
男の右手がすうと動く。ペン カメラ
出血が激しい。鴉の表情が僅かに歪む。
「アンタ、鴉だろ?」
机越しに不快な声が聞こえてくる。
「裏社会じゃあ有名だぜぇ、凄腕の殺し屋なんだってなあ……」
また鈍い銃声が響く。男は鴉が隠れている机に向かって発砲した。
「確か名前も齢も出身地も何もかも不明だったか。任務成功率は百パーセント、失敗はねぇ。アンタはオレ達の間じゃあアイドルさ」
気持ち悪い笑い声と共に男はこちらに向かって銃撃を繰り返す。机の上に突っ伏している死体に命中したらしく、反動でその足がぴくりと動く。
「アンタにゃあ懸賞金も出てるんだぜ、知ってるだろぉ?それだけじゃねぇ、アンタを殺せばオレにも拍(ハク)が付くってもんよぉ……ひゃははははは」
甲高い笑い声が腹の傷にじわりと響く。
……くそ、あのシャブ中野郎め。
鴉は傍らに突っ伏している太った死体を押す。すると死体はごとりと音を立てて床に倒れる。
銃を向けていた男の注意が一瞬そちらに逸れた。その隙を衝いて鴉は机の陰から素早く躍り出て、薬中男の頭をめがけて発砲する。
男も機敏に反応して引き金を引いた。
二発の銃声がほぼ同時に鳴った。
鴉は小さく呻き声をあげる。
……拙い、これは拙いぞ。
男の放った銃弾は鴉の膝を貫通した。思わずその場に蹲(うずくま)ってしまいそうになる。大きな硝子の壁を背にしたまま、満足に動く事も出来ない。
一方、鴉の放った弾は男の肩に命中していた。
……狙いが狂ったか、
……頭を狙ったんだがな。
不幸中の幸いか男はその衝撃で拳銃を床に落とした。しかし肩を打ち抜かれた筈の薬中男はそれでも不気味にへらへらと笑っている。
「へへへ、痛くねえ……痛くねえなぁ」
そしてぎらりと鈍い光を放つ瞳を向けながらポケットからナイフを取り出し、狂った獣のような奇声を上げながら鴉に向かって真っ直ぐ突進する。
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