から見える樹々も、車を走らせる最中に飛び込んでくる景色も

秋の色に染められる今日この頃。

神様が空から絵の具をこぼして色づけたかのように美しい世界。


明らかに夏は過ぎ去り、こっそり足を忍ばせて、冬はすぐそこまで来ているのが、

空気からも、体からも感じられるので、実は秋はあまり好きではない。

と同時に、見ているだけで慰めとなるこの美しい景色に感嘆せずにはいられない。

神さまは、なんて素敵なアーティストなんだろう。


綺麗な紅葉もだいぶ散リ落ちているので、

夏の服をしまうのは、やっぱり残念でならない思いだけれど、

ついに先週末、衣替えをした。



しまっていた冬服の中から、次々と出てくる母の服からは未だに母の匂いがする。

母が亡くなり、私たち姉妹は、まだ着られる(中には新品同様のものもある)

年相応の服をもらってきた。

母はどのように保管していたか分らないけど、

母の服は石けんの匂いに似たとてもいい匂いがする。


一枚一枚取り上げた服に顔を伏せて、スーッと深く息を吸うと、

匂いとともに、母の姿が脳裏に浮かんでくる。

「いったいどうやったら、こんなにいい匂いがするんだろう。」

「箪笥の引き出しに石けんでも入れてたのかなぁ。」

とか考えていると、

もうそのコツを聞くこともできなくなったということに改めて気づき、

母が恋しくなる。


できれば、洗濯などしたくない。

もらってきた夏服は、洗濯する度に心が痛んだが、

幸い、未だにまだ母の匂いがかすかに残っている。

でも、そのうち、母の匂いは、私たちが使う洗剤の匂いに変わっちゃうんだろうな。

と思ったら、すごく淋しくなった。


去年の今頃、母に会いに行ったことも思い起こされた。


私たちの記憶は、五感とともにファイルされ、保存される。

特定な音楽を聴くと、その時、その時の気持ちが蘇ってきて、

想い出の中に引き戻されるように。


いずれ、もらってきた母の服から母の匂いは消えてしまうだろう。

でも、いつかまたその匂いと出会うことがあれば、

その時、私は母との想い出の世界に引き戻されるだろう。


思わず、「五感を造ってくれてありがとう、神様」と心の中でつぶやいた。