業務委託契約書をみると、多くの場合、最初の条項にあるのが「目的」の条項です。

お互いが、この契約で得ようと目指すことがらや成果を記載することが多いかと思います。

実際に業務委託契約書が絡む裁判を担当していても、目的を定める条項自体の解釈が直接の争点となることはあまりありません。

しかし、この条項を引用しながら、契約全体の目的を捉えると、個々の条項の解釈がこうなる、といった展開をしていくことは意外に多く、契約全体の土台ともなるという意味では、重要な意味を持っています。

他方で、この条項に重点を置きすぎて、頭でっかちになるような契約書では、格好もあまり良くありません。

そこで、できる限り短くまとめつつ、必要な内容を盛り込んでいく必要がありますので、案外法的センスが問われる、ともいえるかもしれません。

 

【一般的な条項】

 

最初に述べたとおり、一般的には、契約の目的として業務の具体的な内容や範囲が記載されます。例えば、次のようにごく簡単に記載することも多くあります。

 

本契約は、甲が乙に対し、次条に定める業務を委託し、乙はこれを受託することを目的とする。

とか、

本契約は、甲及び乙の相互の信頼に基づく公正な取引を確立し、相互の利益と業務の発展を図ることを目的とする。

 

多く出回っている雛形も、目的の条項を簡単に記載したものが多く、よく目にする記載になっています。

このような内容では特に有益な内容ではありませんが、記載しては困るというものでもありません。

一応書いてあれば十分、ということであれば、このような記載でも問題になりませんので、こういった記載のまま調印することもあります。

 

【債務不履行、解除の判断を意識した内容】

契約を締結しても、企業の方針、商品・サービスはめまぐるしく変わりますので、永続することは滅多になく、また、期間満了で円満に解消できれば良いのですが、いつもそうなる訳でもありませんので、期間途中での終わりを意識しておく必要もあります。

いかに売り上げていくかという場面ですので、そこまで意識できることも多くありません。そこは弁護士が注意喚起していくところかもしれません。

 

さて、民法では、次のように定めています。

第415条

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

第541条

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 

 

このように、相手方の責めに帰する事由で、相手方の履行が遅れた(履行遅滞)り、履行できなかった(履行不能)りした場合、他方は、契約を解除したり(542条も)損害賠償を請求できるとされています。

しかし、相手方の責めに帰することができない事由がある場合、他方は損害賠償を請求できない、ともされています。

そして、「相手方の責めに帰することができない事由」の判断材料のひとつに、「契約その他の債務の発生原因」「その契約・・・に照らして軽微」であることが規定されています。

この判断基準は、契約の内容(契約書の記載内容等)のみならず、契約の性質(有償か無償かを含む。)、当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情を考慮し、取引通念をも勘案して、評価・認定される契約の趣旨に照らして、という意味であるといわれています。

実際にはこれまでも意識されてきたことではありますが、現在の民法においてこのように規定されていることからすると、できるだけ契約書上も意識しておくに越したことはありません。

 

そのため、契約書の締結の場面において、さまざまな事情で相手の信用が低かったりするなど、万が一に備えて契約の解除、損害賠償の場面を想定しておく必要がある場合、契約書のどこかに、このことを意識した条項を入れておくと、現実になった場合にスムーズに動くことができるようになります。

そこで例えば、委託者寄りに規定する場合、次のような内容を加えておきます。

 

本契約は、甲が乙に対し、次条に定める業務を委託し、乙はこれを受託することを目的とする。

乙は前項の業務を、取引慣行において一般に適合する手順に従って遂行する。

一般に適合する手順の判断は、原則として甲が行うこととする。乙は業務の手順が取引慣行に適合するよう最大限配慮しなければならない。

 

【まとめ】

このように、目的の条項を敢えて簡単に規定して、実際の取り決めを別の条項でしっかり規定しておくことも多くありますが、必要に応じ、実効性ある内容にするといった対応も可能です。ビジネスの現場の判断を、法律の規定に照らし、より実効性ある業務委託契約書を調印するにあたり、継続的に貴社の契約書をチェックできる弁護士を活用していただければ良いかと思います。