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Book's Cafe【hi-lite】店主のページ

実在しない架空の古書カフェ・ハイライトの店主のページ。
本に関わる雑多な記録を、ここへ拠せる。

『ふるさとに恋する観光小説』---とあるだけにテーマはがっつり『観光』で、観光客誘致に向けたおもてなし課の奮闘劇。

県庁を舞台にしたお役所ドタバタ活劇といったストーリーの中にも、しっかりとラブコメを入れてくるあたりは、『さすが有川さん☆』と唸るばかりです。

物語を通して成長していく主人公・掛水を見ていて、たいへん安直ですが、『がんばろう』と思ったのは自分だけでしょうか。


---迷うな。止まるな。一息に言え。

・・・の吉門さんの場合。


---三回目でつながった。

・・・の掛水の場合。


本当に好きなシーンでした。
独白によって物語が進む話というのは、よくあるもので。
あの『ドグラ・マグラ』は勿論のこと、登場人物が『僕』である村上春樹の作品のいくつかだって、見方によっては独白と言えるかもしれない。

少なくとも独白というのは、僕、私…などの人間がするものではないか。

いや、中には或る一家の飼い犬が独白することもあるかもしれない。あるいは、何百年も同じ場所にいる大銀杏の木に独白させることもあるかもしれない。


表題作『独白するユニバーサル横メルカトル』では、地図が語り手として登場します。
一介の地図の独白、丁寧で古めかしい語り口により物語は進みます。

これだけ懐古的な言葉を使いながらも、立て板に水のように物語を流暢に進ませていく様は、圧巻です。

巧妙な伏線に裏打ちされた起伏に富んだストーリー展開が受けている、昨今のミステリーへのアンチテーゼとして本作が存在しているように思うのです。
本当なら罪を犯さなくて良かった人間への慈愛と、不条理が読了後に残ります。

トリックと、複雑ともいえる登場人物をそう感じさせない細やかな描写に『獄門島』という舞台。
初見で犯人を言い当てられる人が果たしていたのだろうか…と、感服してしまいました。


そして、獄門島に蠢く恐ろしい憎念と犯人を犯罪へと駆り立てた、哀しい宿命のような執念に圧倒されました。
個人的には、横溝作品の中でもトップクラスに好きな作品です。

本筋とは大きく関わりがないのですが、『夜はすべての猫が灰色に見える』という言葉が、読了後にとても印象的な一冊でした☆
主人公の少年が7歳の頃から、物語は始まります。少年が佇むのは、デパートの屋上に立つ、象のインディラの碑。

『37年間この屋上にて子供たちに愛嬌を振りまきながら、一生を終えた』

こんなにも冒頭で心引き込まれる作品は、めったにない。

少年とマスター、ミイラ、老婆令嬢。全てはチェスで繋がり、チェスによって再現できる思い出ばかりなのです。

『あぁ…』と声を詰まらせて感嘆の声を上げずにはいられなかったクライマックスに、驚かされる人も多いことでしょう。

全ては棋譜の中に--- チェスができることはなんて素晴らしいことだろう、と思うのです。

不思議と、私は冒頭の象のインディラを見たことがあったような錯覚にとらわれました。しかし、実際にはそんな記憶はどこにもないのです。

インディラは何か、自由とは対極にある決して不自由ではないもの、の象徴として私の記憶に迷い込んできたのでしょうか。


少年が老婆令嬢に言った、
『そう、ルーク、あなたのルークです』
が一番好きなセリフでした。
基本的には読み始めの段階で犯人が誰なのかは分かるので、倒叙ミステリーと言える短篇集。

本作には密室で起こる4つの事件が収録されています。『犯人がどのようにして密室を作り上げたのか』--- 本作のテーマは、それに尽きます。
密室の謎を解き明かす防犯コンサルタントと弁護士のコンビ、榎本&純子のやり取りを考えると、決してシリアスなミステリーでは無いことが分かります。

密室のトリックについてはどれも派手さや斬新さはあるものの、地味ではあれ人間の心理を突いた『心理的密室』を好む自分には、特筆すべき目新しさは無かったように思う。

ただ。

『第一発見者が犯人だった場合、密室をこじ開けるのを躊躇する』

という一言は、得てして人の心理を突いているのでは…と思うのです。