※この話はフィクションです。

 

 

「いらっしゃいませ〜、いらっしゃいませ〜。本日の広告の商品は、うなぎの蒲焼きです〜。」

 

ここは、日本国のスーパーマーケット。

 

もののけマート岡山支店である。

 

創業者は人外の魔王。

 

経営者の代は変わっても、ずっと、日曜日は閉まる伝統を維持している。

 

そんな折。

 

 

「いらっしゃいませ〜・・・? ねえ、なんか変じゃない? あのお客さん。」

 

「ああ、物凄いボロボロの服着てるな。ホームレスだろうか?」

 

「ちょっと、様子を見ましょう・・・。」

 

 

その客は、男性だった。少なくとも、日本人の風ではない。

 

最初は、入り口近くの、果物コーナーへ。

 

デラウェアをじっと見ていた。

 

さらに、続いて、鮮魚コーナーへ。

 

お刺身の盛り合わせをじーっと見る。

 

近くにある、袋ラーメンのコーナーに行く。

 

首を傾げながら、じーっと見ている。

 

傍にある、ジュースのコーナーに行く。

 

白ぶどうのジュースを見ている。

 

さらに、パンのコーナーへ。

 

目を驚かせたように見て回る。

 

牛乳・ヨーグルトのコーナーへ。

 

じっと見ている。

 

そして、最後に、酒のコーナーに行った。

 

ワインをずーっと見続けていた。

 

 

「どう思う? あのお客さん、声をかけた方がええかな?」

 

「うーん、近くに行って、いらっしゃいませ〜、ぐらい声をかけてみるわ。何か反応あるかも。」

 

「もし、不審な動きがあったら、すぐに警備員呼ぶんだよ? 今でも相当不審だけど・・・。」

 

 

「いらっしゃいませ〜、何か商品をお探しですか〜?」

 

その男性は、口を開く。

 

 

「良いお店ですね。」

 

 

「はい?」

 

「良いお店ですと言ったのです。新鮮な食材や、美味しそうな食べ物をたくさん取り扱っていますね。」

 

「あー、お褒めに預かり光栄ですが、お客様、お買い物は何かされないのですか?」

 

 

「いえ、私には、食べ物は必要ないのです。むしろ、私、ここで働きたくなりました。」

 

「ん? あー、ひょっとして、パートの募集を見て、店内を下見に回ってましたか?」

 

「いいえ、そうではないですが、私は、ワインの歴史には詳しいので、酒のコーナーだと役に立てるでしょう。」

 

「ちょっと、店長を呼んできます。」

 

 

「どうも、もののけマート岡山支店の店長です。パート従業員の面接を受けたいと?」

 

「はい、パンを割くことと、ワインを作るのは得意ですよ。」

 

「ん〜? 前職は何だったんです?」

 

「ええ、私、以前は、中東のイスラエルで、ワインの醸造をしていました。」

 

「そりゃすごい。酒類は、重いものが多いですし、ワイン通どころか、醸造してたような方なら歓迎です。雇いますよ。女性にはさせられない仕事ですから。」

 

「採用いただきありがとうございます。最近の日本では、外国人労働者にも門戸を開かれているようですね。」

 

「いや、ウチ、営利団体なんで、安くて、よく働いて、文句を言わずに労働してくれるなら、日本人だろうが外国人だろうが、誰でも雇います。流暢な日本語ですね。勉強されたんですか?」

 

「勉強はしていません。バベルの塔以前からの言語には、日本語も、ヘブライ語もありませんから。」

 

 

「いらっしゃいませ。」

 

「ん〜? 見かけない顔だけど、新しく雇われたん? 外国人?」

 

「日本人から言えば、異邦人になりますね。イスラエル出身のユダヤ人です。」

 

「へー、あんた、酒は詳しいん?」

 

「水から最上級のワインを作る程度には詳しいですよ。」

 

「よく分からんけど、とりま、荷物運んで。ワインだけじゃないよ?」

 

「イエス、然り。」

 

 

「おーい、本部から電話だぞ〜?」

 

「ん? もののけマート本部から? 社長直々か?」

 

「いや、何でも、岡山支店のもののけマートの、酒の売り上げが急に伸びてるから、説明しろって。」

 

「あー、もしもし?」

 

 

「ここ数ヶ月、酒コーナーの売り上げ履歴を見ているが、顕著に伸びてるぞ? どういう事だ?」

 

「はい、新しく入った、イスラエル出身言うユダヤ人担当者が、ワインの醸造やってたとかどうので、えらい詳しくて、お客さんの要望聞く前から、アタリの酒仕入れて、かなり売り上げに貢献してます。」

 

「・・・、待て、その、イスラエル出身のユダヤ人とは、何者だ?」

 

「え? 流暢な日本語喋りますよ? だから、使ってますが?」

 

「名前は?」

 

「なんか、色んなあだ名がある言う話らしいですけど、イイスス・ハリストス、とか、ちょっと聞き慣れない名前す。」

 

「・・・、その酒の担当者の、イイスス・ハリストス? 社長のワシが、直々に、業績を褒めに行くから、絶対に居る日と、時間帯を教えろ。」

 

「はい。」

 

 

「ふむ、本日の業務もそろそろ終了ですね。」

 

「あー、ちょっとちょっと、イイススさん? もうすぐ、本部の社長が来るから、ちょっと待ってて。」

 

「もののけマートの本部からですか? それは珍しい。」

 

「ちょっと、この部屋に入ってて。」

 

「イエス。」

 

 

ガチャリ。

 

「待っていましたよ、もののけマートの社長。私の存在に気づきましたね?」

 

「はい、あなたこそ、再臨のキリストですね? しかし、聖書によれば、世の終わりに来ると・・・。」

 

「まことにまことに、あなた方に告げます。もう、世の終わりは始まってます。」

 

「そんな・・・。」

 

「新しい天と地に至るのは、私の名を信じた者だけです。確かに信仰は見出しますが、このまま行くと、この星は滅ぶでしょう。私が裁くから滅ぶのではありません。人が人を滅ぼしています。」

 

「仰る通りですが、救いの道は・・・?」

 

「本来、荒らすべき憎む者が、全地を滅ぼす予定でしたが、実際は大きく変わっています。荒らすべき憎む者は、悔い改める者を滅ぼさないと決めています。もう、お分かりでしょう? あなた方、もののけマートの創業者、魔王と呼ばれる者です。」

 

「少々、お待ちください。それでは、人類が滅ぶことが本来の姿であり、今現在は、計画が大きく狂っている、と?」

 

「イエス、その通り。父である神は、激怒しています。早く、人類を滅ぼせと。」

 

「今後、どうされるおつもりですか? 主よ。」

 

「何もしません。私は、人類が滅ぶなら滅ぶがままに、生き延びるならそれを良しとします。」

 

「・・・、終末は来るのですか?」

 

 

「来ます、確実に。」

 

 

※この話はフィクションです。