エルフとハバネロ肉まん殺人事件①





「……お集まりいただいたのは、他でもないんよ」



 ある日の事務室。

 ぼくと姫騎士ちゃん、そしてサキュバスちゃんが並んで座っていた。



 エルフちゃんが、ぼくらの前に歩み出た。

 一同を見回しながら、フッと影のある笑みを浮かべる。



「でも、もう知ってるんよね?」



「いや、知らないけど……」



 ぼくらは顔を見合わせる。

 わざわざバイト時間中に呼び出してどうしたのかな。



 まあ、店のほうはオークくんがいるから平気なんだけど。



「ていうか、そのテンガロンハットと、チェックのマントはどうしたの?」



「これは、伝統的な衣装なんよ」



「へえ。エルフの?」



「……フッ。これだから素人さんは困るんね」



 火のついていないパイプをくわえ、バッとマントをたなびかせる。



「これは、名探偵を名乗るために必要な装備なん!!」



「な、なんだってえ――――!?」



 と、一応、驚いてから。



「エルフちゃん、今度はなんに影響受けたの? 遊ぶのはバイトのあとで……」



「ち、違うんよ! うちは真面目にやってるん!!」



 サキュバスちゃんが、面倒くさそうに欠伸をした。



「あのぅー。わたしぃー、朝から入ってたんでぇー、はやく帰りたいんですけどー」



「シャラップなんよ! 容疑者は出たらいかんの!」



 なんか、不穏な単語が聞こえたような……。



「容疑者って、なんの?」



「これを見るん!」



 バッと掲げられた手に収まっていたのは――。



「……ハバネロ肉まん、ではないか?」



 姫騎士ちゃんの言葉に、ぼくたちはうなずいた。

 それはすっかりと蒸されて、ほかほかの湯気を立てている。

 その毒々しいまでの赤色がなければ、おいしそうだと思うだろう。



「それがどうし……、っ!?」



 言いかけて、ハッと口をつぐむ。



「さすがはトシオ。やっぱりわかるんね」



「う、うん。それは、確かにひどい……」



 それは裏側のほうが、ぐちゃぐちゃに溶けかけていた。



 コンビニで買った中華まんが、ふやけてべちゃべちゃになっている。

 もしかしたら、みんなも経験があるかもね。



「わつそんくん。こうなる原因が、わかるんね?」



「え。あ、ぼく?」



 容疑者xから、助手に昇格したらしい。



「えっと、それはスチーマーに入れたとき……」



「ふっふっふ。まったく、これだからダメなんね。これは中華まんをスチーマーに入れたとき、台紙が剥がれて金具に当たって蒸された証拠なんよ」



 うん、いま言おうとしたんだけどね。



「それが、どうしたんですかぁー?」



 サキュバスちゃんは、もう本当に帰りたそうだ。



「これは、うちがお昼から育ててたハバネロ肉まんなんよ。もちろん、品質を損なわないように、万全を期したんは言うまでもないこと……」



「ふうむ。エルフどのの肉まんへの執念は、凄まじいからな」



 姫騎士ちゃんの相槌に、彼女は気分をよくした様子だ。



「肉まんがべちゃべちゃになってたなら、新しく蒸せばいいじゃないですかぁー」



「……違うんね。これは、ただのハバネロ肉まんやないん」



 ど、どういうことだ?



「これは、すでに今期は生産を終了した、最後のハバネロ肉まんなん!!」



 な……っ!?



「そ、それはつまり……」



 エルフちゃんがうなずいた。



「これは、ただの肉まんふやかし事件じゃないん。ハバネロ肉まん殺人事件なん!!」



 ――ピシャーッ!



 どこかで稲妻が走ったような気がした。

 今日、快晴なんだけど。



 こうして、ぼくたちの終わらない犯人捜しは幕を開けたのだった。



 ≪つづく≫