サマリー
DXの要諦は抽象化にある。単に、デジタル技術をつかって業務改善をすることをDXとは言わない。
レイヤー化する世界の中で、企業はアルゴリズムになる。スマートシティもスマート工場も、データがレイヤー構造の上位に進むにつれて抽象化される。
上位レイヤーに上っていく抽象化という仕組みによって、コンピュータによる知能は、業種や分野に縛られることなく、共通のアプローチであらゆる課題を解決できるようになる。
その一つの問題解決ですべてが解決できるということがデジタル化であり、インダストリー4.0は何でも生産できる万能工場のイメージに近い。
(ちなみに、このような発想は脳科学の研究による影響が強いと思われ、Netflixの科学者も神経系統を具体的にイメージとして使っている。人間の知能に相当する新皮質は、どの部位も同じ処理をしているが、結びつき方の違いによって、上位の階層に進むにつれて抽象化を進めることによって、様々な処理を可能にしている)
第1章 デジタル時代の歩き方
アリババの元最高戦略責任者(アリババ 世界最強のスマートビジネス) アルゴリズムで動いていない会社はスマートビジネスでない
両利きの経営(チャールズ・オイラリー&マイケル・タッシュマン) 野球とサッカーを同時にプレーする
第2章 抽象化の破壊力
業種というタテ割りの中で戦う/政策を考えると勝てるという我が国官民に共通の二つの発想を打ち砕いたのがデジタル化。新しくIT産業が既存の業界の外側のできたかのように考えて敗れた。
デジタル化のスタートラインに立ったエイダ
これを使えば何でもできるのではないかという発見。単なる計算機から、コンピュータ、人工知能と呼ばれるものへの発展。特殊から一般、具体から抽象への発想の転換である。
=デジタル化の核心
デジタル化の時代に不可欠なのは、まずは抽象化してみて、それから具体化する(上がってから、はじめて下がる)
ドイツの企業が行っていることは、顧客の要望を最大限に聞くことではなく、1)標準化、2)自社製品の注文でなく販売先の2~3年後の課題(販売先のさらに上流にいる顧客の将来を見ている)
上がってから下がるというのを最初に迫ったのがグローバル化であり、さらに本質的に迫っているのがデジタル化である
スマート工場で起ころうとしていることは、製造業で取り組んでいる様々な事柄を、国籍・業種・企業・工場・ライン・装置の区別に関係なく、共通のアプローチで溶けないかというチャレンジである。
第3章 レイヤーがコンピュータと人間の距離を縮める
エルブジ ビジネスを2つのレイヤーに分けた(バルセロナにあったワークショップでのレイヤー、いま一つはゲストをもてなすレストランのレイヤー)
レイヤー構造の重要さ
共通的な手法で解が出る範囲を順に層・レイヤーとして積み上げる。
レイヤー構造になると、コンピュータの分かる言葉と人間の分かる言葉のギャップを埋めることができる
グラノベッタ―という社会学者 弱いつながりこそが決定的なインパクトを持つ
ディープラーニングは、そのネットワークの入力と出力の間に多段階の層を設けたところ、すごくうまく行ったということに端を発している
第4章 デジタル化の白地図を描く
ミン・ゾンによるとアリババが担っているメカニズムは2つである。ひとつはネットワークコーディネーションであり、もうひとつはデータインテリジェンス。それを中国的に「陰と陽」として表現している(つまり、ネットワークのないデータインテリジェンスは無意味ともいえるのではないか)。アリババは2017年のピーク時には毎秒32万5千件の取引を処理した。最適な組み合わせを実現するには、大量のデータとアルゴリズムを使った裏側の仕掛けが重要である。
アリババは、超スマートなネットワークコーディネーションの機能をレイヤー構造のかたちをしたインフラで提供している。
アリババも出資しているルーハンという企業
ルーハンはウェブセレブというビジネスモデルをサポートしつつ、そのサプライチェーン全体をオンライン化・自動化している。LVMHのオンライン版のようなもの。
ウェブセレブが身につけたファッションに、フォロアーがSNS上でどう反応するかを把握し、分析する。それをもとに、どの商品をいつどんなスタイルで投入するのがベストかを選択する。
レイヤー構造ありきの発想こそが、事業部門タテ割り、会社タテ割り、業種タテ割りの発想から我々を解放し、横割りの行動に具体的かつ実践的に踏み出せる
第5章 本屋にない本を探す
ネットフリックス リード・ヘイスティングス 自社の企業文化を説明した社内用パワーポイントを公開して話題に。
ネットフリックスのDXは逆コンウェイの法則 システムの構造が組織の構造を規定するようになっている
ネットフリックスの技術者たちは、自分たちがマイクロサービスやクラウドなどを使って実現することを神経系統としてイメージして説明している(『考える脳、考えるコンピュータ』との共通性)。
組織がシステムのアーキテクチャを規定する状態から、システムアーキテクチャが組織を規定し、そのコンテクストになるということ。
デジタル化 = 自社の持っているシステム構成や自社が保有しているデータを質問するのでなく、まず外部環境を棚卸するということ。
そのことによって、1)世界をベンチマークすることになる、2)自社が真に集中すべきポイントが明らかになる
第6章 第4次産業革命とは「万能工場」をつくること
インダストリー4.0の提唱者 SAPのCEO ヘニング・カガーマン氏 インダストリー4.0のイメージは、万能工場のイメージを浮かべたほうが良い
ピカソは、キュービズムを通じて世界をパターンの組み合わせで理解する
第7章 アーキテクチャを武器にする
中西宏明経団連会長 アーキテクチャは1)技術的な要素を含むが経営者が理解すべき話、2)業種という垣根や発想はなくなる
アーキテクチャとは、
ビジネス、産業、社会を複雑なややこしいシステムとして捉え、それに対して人間(社会)がソフトウェアのロジックを基本において立ち向かうためのもの
ソフトウェアアーキテクチャの真髄は抽象化にある
データを変換するものであり、事前事後の状態の差分として表現すべき
アーキテクチャを正しく理解するには、プログラムを見るのではなく、データをどういう状態に変換しているかを見ろ
デジタル化はザ・法則を発見するためにあるのではない。事象をデータを使って捉えると様々なパターンが発見されて、それを組み合わせてみると、より良い価値が提供出来るのではないかという実践的な取り組みである。
化学プラントもスマートシティもデジタルマーケティングも会社も、データを使って駆動する複雑なシステムとして捉えるべきである。
IX時代の歩き方 正誤表
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正 |
誤 |
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課題から考える |
手元にある解決策から考える |
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パターンを探る |
既存のカテゴリー、ルールを当てはめる |
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アジャイルにこなす |
要件定義をしっかり書く |
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抽象化する |
目の前の具体にとらわれ、さらに細分化する |
第8章 政府はサンドイッチのようになる
インディア・スタックの事例
新しいガバナンスのアプローチとして面白い。GAFAなど民間セクターが提供しているサービスを一つのレイヤーとして認めながら、インド政府が設計したレイヤーを差し込むことで全体として政策目的を達成しようとする明確な意図がある
- 基礎=個人認証基盤(アダール)
- 上位に、e-KYC(サービス提供者がオンラインで顧客を本人認証し、基礎情報を確認できるもの)
- さらに上位に、「デジタル・ロッカー」(政府発行の証明書等を必要な相手に送付)
- 決済機能 UPI(あらゆる口座を仮想化して。メールアドレスのようにアドレスを振って、送金を可能にする) 銀行が決済を独占することを防ぐ
第9章 トランスフォーメーションの時代
トランスフォーメーションは、サイバーフィジカル融合であり、ソフトウェアが世界を食い尽くすということであり、会社はアルゴリズムで動くということ
IXのスタートラインは、「これをやればなんでも一気に解決してしまうのではないか」という人間側の発想であり、ロジックである。
IX時代のリーダー ①課題から考える 解決策にとらわれない ②抽象化する 具体にとらわれない ③パターンを探す ルールや分野にとらわれない
解説
我が国において、ハンコをなくすとか、リモート会議をやるとか、殆どはデジタル技術を使って業務改善をやりますという程度の話。
人に本質的な何かを伝えるとき、抽象性・普遍性と具体性・リアリティを両立させることは容易でない
デザイン思考においても、思考のゴールにおいてアーキテクチャを意識しないで生み出したアウトプットはビジネスとしてまったく報われない
Society5.0が真に問うものは、デジタル時代における社会全体のアーキテクチャのゼロベースの創造と転換である。
