第10章 取引先移転 その2
「自分は負けたと思いましたよ。」
「ふふん。見た目はね。君が一番正直だったと思うよ。」
工藤部長はそう言ってくれた。ビジュアルで負けたが、気持ちは伝わったようだ。何となく元気が出たというか、自信になったというか、つまり、素直が一番なのだ。そう思えた。あらためて正直者で居たいと思ったものだ。
しかし、そんな工藤部長が隣県へ移動してしまう。勿論契約、業務は継続するのだが、父親が離れていくようで寂しい。寂しいというより悲しい気持ちが強い。
「隣の県に言っちゃうし、無理して足を運ばなくても良いよ。今はメールっていう便利な物もあるし。あ、TV会議しようか?」
工藤部長は気遣ってくれる。
「いえいえ、これまで通り定期的に打ち合わせして欲しいです。隣の県でしょ?
いくらでも行きます。」
第10章 取引先移転
一番の取引先の工藤部長に呼ばれた。自分を正直過ぎる営業と言った方だ。工藤部長は見た目は怖そうではあるが、どこと無く、就職して早々に死別した父親にも似ていたように思え、話をする、会いに行くのが楽しかった。
「新しい仕事?でもいつもと違うなぁ?」
不安は的中した。オフィスが隣県へ移転すると言うのだ。
一番の取引先であり、一番の営業先、プレゼン先でもある。初めて訪問した際、課題を出された。プレゼンをして欲しいとの事。自分を含め3社のプレゼンにて契約を決めるということだった。転職したばかりでもあり、力が入った。
いざプレゼン当日。自分では“会心の出来”と思ったのだが、他社の出来には正直負けたと思った。どうも自分にはビジュアルで訴える力は無いようだ。完敗、そう思った。
しかし、結果は自分の案を採用いただけた。工藤部長に聞いた。
第9章 営業資料作成
売り上げ倍増!
どうしようか?本音である。商材は増えるのは良い事だが、すぐに売り上げに反映されるものではない。とりあえず、アピールとアプローチ方法を考えよう。今の取引先は勿論だが、これまで取引が出来ていない所へ足を運べるチャンスでもある。企業リストを見直し、新しい商材とマッチする業務内容、規模の企業をピックアップする。商材のカタログに沿える資料を作成する。これがなかなか骨の折れる作業だ。情報が多過ぎてはダメ、少なくてもダメ。A4一枚に上手くまとめる。パッとみて興味を持っていただけるような資料。作っては消し、作っては消し。会心の出来ではないが、丸2日掛かった。このへんで自分のセンス、ビジュアル感覚が弱い事を痛感する。アイデア、企画は湯水のように湧いてくる。しかし、それをなかなか紙面に表せない。いつだったか、友人にお願いした事がある。半日くらいで見事な案内チラシを作成してくれた。彼のセンスが羨ましい。
ともあれ資料も出来たので、アプローチ日程を検討。後は訪問し、上手く説明するだけ。いつか言われたように、素直に、正直に。
第8章 出張帰り
2日に渡った報告会、打ち合わせも終わり、帰路に着く。赴任先の住まいまでは本社から三時間半。うち新幹線乗車時間は三時間。小説を読む。この時間が結構好きだったりする。三時間は確かに長い。以前は出張の多い会社に居たので、その際は好きな作家のシリーズ物を良く読んだものだ。最近は車での移動が多いので、なかなか活字を読む事も少なくなった。家で読もうものなら、寝る時間を忘れて読んでしまい、睡眠時間が少なく、次の日が辛かったりする。今は出張の新幹線往復に読む。結構有意義な時間の使い方かと思う。最近漢字も思い出せなかったりするので、貴重な時間だ。
つい眠ってしまった。気がつくと終点の降車駅のすぐ近くまで来ていた。
二十一時になろうとしていた。いつもの店で食事してホロ酔いで帰ろう。いつもの店に向かった。最近は来ていなかったし、いつもは十九時前後に行っていたので、店長も驚いていた。
「出張っすか?」
「うん。今着いたところ。」
第7章 売り上げ倍増計画 その3
この売り上げ倍増計画には背景がある。成績の上がらない、下がり始めた営業所があり、企業全体としては、そのリカバリの意味もある。自分の営業所も開設当初は他の営業所から取引先の系列企業を紹介いただいたりしていたので、困った時はお互い様。For The Team, All For Oneである。
しかし、売り上げ倍は何とも言い難い。勿論そのつもりで活動はしているものの過疎の進む地域でもあり、顧客の絶対数が少ない。そう考えると“倍”と言われると辛い。
実際に伸び悩んでいるのも確かだ。きっと熊本営業所も同じだと思える