真っ赤な部屋だった…。
 窓の外には雨が降り続いている…。
 部屋の中には1人の青年と1人の少女が佇んでいた…。
 その周りには累々と横たわる死体があった。
 黒髪の少女はその中のひとつに縋りつき、声を上げて泣いていた。
 そして銀色に輝く髪を持つ青年は…あるいは泣いていたのかもしれない…。


        *****


 自分の名は何だろうか。彼は思い出そうとした…。
 だが記憶を辿っても、本当の名は思い出せない。
 勿論今までに呼ばれた名はいくつもあった…。

「…な、なんだこのガキは!? まさかコイツが…"フランク・イェーガー"!?」
「目が覚めたか? "ナンバー【Null】"」
「命令に従え、"絶対兵士"!」
「お前に、"グレイ・フォックス"のコードネームを与える」

 …だがどれも、彼の"本当の名"では無かった。
 物心付いた時から戦場にいる…"名も無き兵士"だ。
人を殺すために育てられ、人を殺すために生かされてきた…。
何の感情も無く、ただ殺すためだけに。

 だがそんな彼に手を差し伸べた者がいた…。
 隻眼の男は彼に帰るべき場所を与えた…。

 そして男は彼に心を与えようとした。
 だが今までの人生で"感情"を殺してきた彼にとって、それを理解するのは容易ではなかった…。
 しかし恩義は感じていた。
 だから彼は、男のために自分の出来る事をしようと思った。

 そうして彼は、最強の部隊で最強の称号を得た。だが男はどこか悲しげだった…。


        *****


 男と出会ってから何年が過ぎただろうか…? 
 彼はやはり戦場に居た。
 任務は『敵の全滅』
 彼は常に任務に忠実だった。

 銀色に輝く髪を揺らし、銀色に輝く刃を振るう。
 次々と…"人"が"人だった物"へと変わっていく。
 今回も任務は完了。
 累々と死体が転がる血塗れの部屋を後にしようとしたその時・・・。
 物陰に気配を感じた。

 …歳にして3歳か4歳の、黒髪が美しい少女がそこに居た。
 少女は無残に切り裂かれた女性兵士に泣きついていた。
 彼は任務を果たそうと、刃を振り上げた。
 …だが振り下ろせなかった。
 己の命を絶とうとする刃に気づきもせず、一心不乱に泣きじゃくる少女を見ていると、
胸が痛んだ。

 …自分は壊れてしまったのか?
 …狂ってしまったのか?

 …結局彼は、任務を完遂できなかった。


        *****


「任務を果たせませんでした…」
 少女を抱きかかえて、彼は隻眼の男にそう言った。
 だが男は一言…
「それでいいんだ」
 …と言った。

 隻眼の男は、少女の面倒をお前が見ろと言った。
 彼は自信は無かったが、命令とあらば従うしかない。

「…これからお前と暮らす事になる。名前は何という?」
「……わたしはナオミ。お兄ちゃんは?」
「…俺は………俺は、フランクだ」