(ストーリー)
第二次世界大戦時の1941年。ナチス・ドイツの迫害はポーランドの小さな田舎町にまで迫っていた。両親を殺されたユダヤ人の”ビエルスキ兄弟” は、復讐の気持ちを胸に、ポーランドに隣接するベラルーシの森に身を隠す。やがて森には、ドイツ軍の迫害から逃げてきたユダヤ人が次々と助けを求めて集 まってくる……そして終戦の1944年7月、ベラルーシの森には1200人ものユダヤ人が生きていた。
この3年間、トゥヴィアはリーダーとして、ユダヤ人が”自由に”暮らせる場所を築こうとする。食糧難、寒さ、ドイツ軍との戦いの中、”人間らしく”生き抜くことを心に決め、肉体も精神も極限状態の日々に希望を見出そうとしたのだ。
(チラシより抜粋)

ナチス・ドイツの独裁政権下、オスカー・シンドラーに匹敵する、1200人の命を救ったユダヤ人兄弟の物語。
ドイツ人であるシンドラーとは違い、ユダヤ人がユダヤ人を守り、レジスタンスとしてドイツ軍らと戦い抜いた点が歴史的にも貴重と言える、実話を基にしたストーリー。
主演は、新生ジェームス・ボンドのダニエル・クレイグ。
共演は、リーヴ・シュライバーに、「キングコング」「父親たちの星条旗」「ジャンパー」と注目作出演が相次ぐ若手ジェイミー・ベルら。

ユダヤ人狩りを逃れ、森に逃げ込んだ4人の兄弟。
理性的でありながらも熱き血を心の中に滾らす長兄トゥヴィア。
血気盛んで攻撃的な性格の次兄ズシュ。
穏やかな性格で兄を慕う三男アザエル。
まだ幼い四男アーロン。
彼らは、ドイツ軍やそれに従う警察からの迫害を逃れるため、慣れ親しんだ森に逃げ込み、ひっそりと身を潜めるはずが、同じくドイツ軍からの迫害を逃れんとしたユダヤ人が集まってきてしまう。
そんな中で、長兄トゥヴィアを中心に、ユダヤ人コミューンが形成されていき、ズシュ、アザエルを含めたビエルスキ兄弟がそのコミューンを率いる。
彼らは、食糧を周辺の村から調達したり、武装したりして、”人間らしく”生き抜きつつ、敵対するドイツ軍とは血にまみれた戦いを繰り広げる。

コミューンには、インテリたちも入ってきて、その扱いを巡り、主義主張の違うトゥヴィアとズシュがぶつかり合ったりもする。
また、厳しい生活環境の中、反発する仲間も出てきて、そこはやはり戦場……戦時の生存競争がいかに熾烈を極めたものか、見せ付けられる。

しかし、コミューンの中では、妊娠こそ赤子を育てる余裕がないことから禁じられるが、結婚や恋愛は自由。それぞれが”森の連れ”を作り、コミューンの絆を深めていく場面もあった。
また、中にはユニークなメンバーもいて、熾烈でシリアスな物語の中、思わず笑ってしまう場面もあったりする。
これは、映画の作り手の趣向なのだろう。

次々に襲い掛かるドイツ軍。
厳しい冬の寒さに食糧難。
様々な困難に直面しながらも、必死に”人間らしく”生き抜こうとするユダヤ人たち。
精神的に極限状態を迎えたトゥヴィアを、結婚し守るべき伴侶を得て逞しく成長したアザエルが叱咤激励して民を導く姿や、トゥヴィアとの衝突後ソ連軍と行動を共にしていたズシュが兄弟の絆を見せ付けてくれるシーンには、思わず感動の涙を誘われてしまう。

戦争という”人間性”を”獣”に変えてしまう状況下、そのリアリティ溢れる戦闘シーンや、生き抜くための争い、人間が人間でなくなってしまう現実 を見せ付けられ、戦争の悲惨さや愚かさ、残酷さを見せ付けてくれる反面、命や人間らしさを守るため戦ったユダヤ人達がいたということ、数多くのユダヤ人を 守ろうとしたビエルスキ兄弟がいたという史実も教えてくれる。
武力行使は決して素晴らしいこととはいえないし、それが正義なのかどうかは神のみぞ知るだが、親兄弟をはじめとする大切な人々を失ったユダヤ人が、それでも希望を持ち、逞しく、強く”人間らしさ”を守ろうと戦ったということは、史実として認めるべき功績なのかもしれない。
また、兄弟たちの絆、ユダヤ人たちの絆の深さは、見習うべき点も多いポイントであろう。
この時生き延びたユダヤ人たちの子孫が今や数万人規模になっているということからも、ビエルスキ兄弟は、やはり英雄と呼ぶにふさわしい存在だったのだと思う。

英雄というものが、戦争という愚かな行為の中から生まれることは哀しい現実でもある。

”人間らしさ”とは何か?
生き抜くとはどういうことか?
戦争のリアリティ溢れる描写によって、それらをまざまざと見せ付けられ、深く考えさせられる作品。
我々は、歴史から学ばなければならないことは多い。
平和……それが何の上に成り立つものなのか、今一度考えてみるべき時代になっているのではないだろうか。