昔、夏休みに夫と米国東部ニューイングランドの山間をドライブしていたときのことです。昼時に賑やかそうな町に入ったので、ここでお昼にしようということになりました。その日は何か特別な日、フェスティバルでもあるのかな？という位に人が多く、町の中心らしき公園では高齢の紳士や婦人がそこここで円になってお祈りをしていました。適当なレストランを見つけて中に入り、メニューを見ていたら、今日のスペシャルという感じで「VJメニュー」というのがありました。

メニューをいろいろ見たのですが、VJメニューとは何なのかわからず、ウェイトレスに尋ねました。その人は私たちの表情を探るように見ながら、「Victory to Japan メニューのことです」と説明してくれました。

夏休みの旅行中であり、米国内をドライブしていたこともあって、その日が８月１５日（米国では１４日だったかな？）の終戦記念日であったことをすっかり忘れていたのでした。周りを見回すと、みんなそのVJメニューらしき料理を食べているようでした。さっきの公園の高齢の方達は、戦没者を悼んでお祈りをしていたのだとわかりました。さすがに「VJメニュー」を食べる気にはなれず、別のメニューを注文してレストランを出ました。その地域の土地柄もあったのかと思いますが、日本と戦争をした相手の国にいて、当然ですが、今まで知っていたのとは逆の意味の８月１５日があるのを知ったのと、それがお祝いメニューとしてあることには心が痛みました。かと言ってレストランでも、街を走っていても、私たちが不穏な思いをすることは全くありませんでした。

その後レンタカーのカーラジオからはローカル局のDJによる音楽番組などが流れていましたが、聞いていると今日が終戦記念日だという話になり、当時のニューヨーク５番街の様子の実況が流れたのでした。「JAPAN Surrender－！　（日本、降伏－！）」。通りには紙ふぶきが舞っています！と興奮したように伝える実況と、パレードらしき音楽と人々の熱狂と歓声に思わずラジオのボリュームを上げて、聴き入りました。

日本人にとっての８月１５日のイメージは何度もTVで見た昭和天皇の玉音放送を皇居前でひれ伏して聞く人々の姿であり、原爆によって一面焦土と化した広島と長崎の様子、焼け野原になった東京の様子です。ラジオを聞きながら複雑な気持ちでした。同じ時代の同じ歴史的出来事を、世界ではそれぞれに違う受け取り方がされていたのだという事実に改めて気付かされ、心に痛みを感じると共に忘れられない体験として思い出に残りました。

また、シンガポールに夏に行った時に、確かマリーナ・スクエア（だったと思いますが・・・、環境客の多いオーチャード通りよりは地元の人々で賑わうショッピングセンター）で、オベリスク（五角錐の塔）の周りに人々が集まって、お線香を手向けてお祈りをしている姿を見ました。何なのかと思って近寄って見ると、そのオベリスクは戦没者慰霊碑で、５面に５か国語で当時日本の軍隊によって多くのシンガポール人が犠牲になったということが記してあったのです。人々はその前で深く祈りを捧げていたのです。（シンガポールは多民族国家なので５か国語で記してあったのだと思います）。

なんと私たちはそれを見て、思わず「これはやばい」と思ってその場をそそくさと立ち去ってしまったのです。衝動的にとった行動でしたが、恥ずかしいことをしたという思いは強く、後でどうすればよかったのかと考えて、シンガポールの人達と共にお祈りをしてくればよかったのだと気付きました。日本人としてきちんと慰霊と平和への祈りをしてくるべきだったのに、恥ずかしいことをしました。次に行ったときには必ずやり直して来ようと思いつつ、未だに果たせていないのが心残りです・・・

８月１５日は日本にとっては終戦記念日ですが、中国では抗日戦勝記念日であり、韓国では（日本による）植民地支配からの解放の日だという事実もその後に知りました。アジアの他の国々でも同様に記憶されている国があるのではないかと思います。イギリスに暮らしていた時にも「戦争と日本」について体験したことがありますが、長くなるので省略します。とにかく、海外ではそれぞれに８月１５日の意味は違うという事実を知りました。

昨日はTV各局で戦後７０周年の特別版組が放送され、戦争を体験された方々の貴重な証言をたくさん伺うことが出来ました。戦争による犠牲の証言は日本人としては心が傷むことばかりですし、戦争の記憶として決して忘れてはいけないことだと思います。しかし、自分が見た日本以外の国の８月１５日の記憶も事実なのです。両方あるのが真実だし、双方に多くの犠牲者を出し、悲惨な結果しか生まなかった。だから、どの国の国民も願いは同じで「平和を望むこと」「二度と戦争を起こしてはならない」ということだと思います。（世界では未だに紛争をしている地域が無くならないことに胸が痛みますが）。

戦争の記憶を風化させてはいけないと新聞もTVも言っています。風化させないためには戦争についての事実を否認しないで、正しく認識することが大事だと思います。日本が戦争で犠牲になった記録と共に、他国を侵略した歴史や、当時の日本が戦争に向かってしまった全体主義といわれる状況や背景、他国との関係など、知らなければいけないことがたくさんあります。現在は書籍やTV、WEBなど手を伸ばして知ろうとすればいくらでも情報は入手できるのに、私も含め、多くの戦後世代の人が与えられる情報だけで知ったような気になって、自ら知る機会を逸してしまっているような気がします。もっと自分で本当のことを知ろうとしなければと思います。政府から与えられる情報だけを信じていたことが当時の国民の過ちでもあった訳ですから。

私たち、そして子どもたちは、戦争を知らない世代だからこそ、何故日本は戦争に進んでしまって、止められなかったのか、客観的に捉えることができると思うし、そこから学ぶことが平和のために大事なことなのではないかと思います。今国会で議論された件についても、自分がもっと真剣に考えなければいけないと感じました。

最近JAの市で買った夏の花です。

心が痛かったメニュー