時計の音が嫌いだ。秒針がカチコチと1秒づつ時間を刻む音が、大嫌いだ。

次の日へのカウントダウンが明確な音として僕を襲う。時計の音を聞く度に、僕の心臓はドクドクと跳ねる。不快極まりない嫌な跳ね方をする。

不安、焦り、恐怖…色々な感情が入り乱れては流れていって、また入り乱れてを繰り返す。そのうち遂には目にうっすらと涙の膜が張り始めては、絶望に追い込まれているような感覚に陥って、まともな思考が働かなくなってしまう。


そんなに思い詰めるならば時計の電池を抜いて、部屋から時計という存在を排除すればいいと思うかもしれない。

確かにそれは限りなく正解に近い答えだろう。しかし実際はそんなに簡単なことでは無い。時計の電池を抜き、部屋から消し去ったとしても音がずっと耳に残り続ける。何も動いていないはずの部屋でひとり、存在しない秒針の音に苦しんでは苛まれる悪夢をループする羽目になってしまう。

ならいっそのこと、本物の秒針の音の方が現実であると分かりきっている分ラクなのではなかろうかともう一度時計を動かしてみても、それはそれで確実に聞こえてくる音に苛まれてしまう。


音の出ない消音タイプの時計というのも試してはみたけれど、やっぱりふとした時に秒針の動きと音がリンクして聞こえてきてしまうから、意味が無いも同然だった。


答えが出ない。最適解がわからない。時計という日常的なインテリアにさえ恐怖心を抱いてしまう自分は、やはり欠陥品なのかと明後日の方向に考えが飛んでいくことも珍しくない。というかほぼ毎晩のように思考がどんどん飛躍していってしまう。



…今日も秒針の音に怯えながら、何も出来ないまま夜が更けていく。