ユノは泣きじゃくるジェジュンを優しく抱きしめ
泣き止むのをただずっと待っていてくれた
気持ちが落ち着ちついてくるとジェジュンも
子供のように泣いた自分が急に恥ずかしくなった
それを誤魔化すように懐かしい部屋を見渡すと
棚に整然と並べられたカメラに目が留まる
「ねぇ、ユノさんはどうしてカメラマンになったの?」
ふっと脳裏に浮かんだことをジェジュンが聞いた
「どうして?そうだな…」
ユノは天井を見上げた
そして我に返ったように真剣な目をして
満面の笑顔で言った
「美しいものや好きな人の一瞬を残しておきたいから…かな」
「え?」
「最初は父さんのカメラで面白半分でいろいろ撮ってたんだ
両親が出かけた先で事故にあって
突然ひとりぼっちになった
そんな時、母さんが料理や洗濯を干してる姿
父さんが読書や釣り道具を手入れしてるそんな日常の
たわいない写真の思い出に俺は救われたんだ
だから、いつか誰かの役に立つような
そんな写真が撮れたらいいなって思っている」
「ユノさんなら絶対撮れるよ♪」
ジェジュンがキラッキラの笑顔でユノの腕を取って言った
「そうかな、有難う♪そうだ!
以前ここで撮ったジェジュンのネガがまだあるはず」
「え?あるの?見て見たい♪」
「マジ?現像しなきゃいけないし…」
身を屈めたユノの唇が迫ってきて
心拍数が跳ね上がる
「見たいんだけど…ダメ?」
上目遣いでジェジュンが頼むと
苦笑いしてユノに頬を包まれた
「ちょっと時間がかかるけど、本当にいいのか?」
「―――あ…」
口づけられるのかと思うほど近づいた唇は
あと数センチのところで離れていった
頬を優しく指で掴まれ揺すぶられるだけで終わってしまった
「い、いいよ…」
自分でもわかるほど頬を熱くさせたジェジュンは
クッションで顔を隠しながら
「待ってるから」というのがやっとだった
恨みがましく睨んで見てもユノはただ笑うだけだ
唇を尖らせても届かないユノの顔は
現像する為に暗室へと慌ただしく入って行く
閉じられたドアを見つめながら
「バカバカ、僕のバカ」
ジェジュンは、クッションで顔を覆いながら横に振る
勝手に期待した自分が恥ずかしかった
「なら…」
クッションを腕で抱きしめて、ジェジュンは呟く
「ごめんね、我がまま言って…
美しいもの、好きな人の一瞬を捉えるために
写真が発明されたとしたら……
ユノさんにとって、僕は―――?」
・
・
「ジェジュン出来たぞ♪」
暗室から出てきたユノは
ソファーで眠っているジェジュンを見つけた
「……寝ちゃったのか」
ユノはジェジュンを抱きあげるとベッドへ運んだ
安らかな顔で眠るジェジュンの髪を優しくかき上げた
「疲れてたんだな…」
その横に寝転んで穏やかなその寝顔を眺めていた
静かな寝息に安らぎを感じながら
いつしか一緒にユノも眠ってしまった
・
・
ベッドサイドの机上で揺れる携帯音が響く
ユノはジェジュンを起こさないように、そーっと腕を伸ばした
「はい、え、ああ、なんだユチョンか?
うん?慌てて、どうした?
え?なんて、え?キャンセル?ああ…例のあれか?」
ユノの動揺した声に、ジェジュンはビクンと体を揺らした
キャンセル…まさか父さんが!!
そう悟った瞬間
ジェジュンの背中に冷や汗が伝う
「うん、うん、わかった、わかってるって
そんなことで俺は腐らないよ、ああ、じゃ~な」
携帯を戻すとユノは
背中を向けて眠っているジェジュンを
自分の方へ抱きかかえるようにして変えさせた
「ジェジュン」
ジェジュンの髪をやさしく梳くユノの指先
そっとなぞるように、唇を触れては名残惜しそうに去っていく
まるで指先でキスされてるみたいだとジェジュンは思った
もう一度、指先で唇に触れてくると
ユノはゴロンと横になって眠ってしまった
眠っているフリをしていたジェジュンは
静かに寝息をたて始めた、ユノの顔を覗いた
「ユノさん、ごめんなさい…」
愛しいユノの手を指を延ばしてそっと触れてみる
大きくて綺麗な手は優しいのに力強い
誰の助けも借りなくてもひとりで生きていける男の手だ
ジェシカ、ユノさんが僕を守りたいって
僕は幸運に縁がないけれど…神様はたまに綱を下してくれる
掴めない綱だけど、傷ついた僕の心を癒してくれる
『限界なのよ!!』
突然、ジェジュンの脳裏でボアの声が木霊した
ボアさん、ごめん、有難う
でも…僕は―――!
ジェジュンは唇を噛み締めた
自分の体が限界なら
残された時間を愛する人の為に使おう
だから悩まず、恨まず、生きよう
僕は…最期に夢見たユノさんとの幸せの時間を諦めよう
もう僕のせいで…失わないで
ユノさん、僕を憎んで、忘れて―――
離れていても心は永遠にいっしょだから
そう決めたジェジュンは枕に顔を埋めたまま
声を殺して泣いた
そしてユノが眠っている間に部屋を出ようとした
ジェジュンは机上に置かれた数枚の写真に目が止まる
「これって……」
初めてユノと会った八公山
桜舞う中で、笑っているジェジュンだった
無造作に置かれている写真
それは2年前、この別荘で過ごした何げない瞬間だ
歯磨きをしているジェジュンの後ろ姿
ご飯を食べているジェジュンの横顔
安心しきった顔で眠っているジェジュン
撮る側の愛情が溢れ出すような、やさしい色合いのスナップ
大切な思い出を、まるで昨日のことのように
その一瞬を鮮明に甦らせた
一体どんな気持ちでファインダーを覗いていたのだろう?
そう思うと視界が歪み胸に詰まる
ユノさんの写真の世界はどんな彩りでどんな愛に満ち
そこでユノさんは太陽のように眩しい人になるだろう
だから―――
僕の世界に巻き込んじゃダメなんだ…
その瞬間
堪えきれずにどっと涙が溢れ
心臓が悲鳴を上げるように痛んだ
「ありがとう、ユノさん」
ジェジュンは振り返って小さくユノへ告げる
……ユノさんの世界を壊させない!絶対に!!
ジェジュンは改めて強く決意する
頬を伝う涙を拭い、コートから取り出した
腕時計を写真の横にそっと置くと別荘を出た