『始めていい?』

太一・リサ夫妻の自宅。

広いリビングの壁をスクリーンにして、
部屋の照明も消され
映し出されたのは
先日、仲間うちで行われた
サッカーの試合の映像で、
仲間の1人が編集してくれたものだ。



太一がリモコンで音量を調整した。



いつの間にか
リサと並んで観ていた夫の太一は
試合の内容に夢中になり
ソファを降り、床に座っていた。

人の気配を感じ
リサが振り向くと
さとしが後ろに立っていた。
さとしの手はリサの肩に置かれる。
その上に自分の手を重ねる、リサ。



映像をケラケラ観て笑い出す、
そら。
夫・アキラに
小声で話す。
『アキラ、映ってるけど、暇そうだね笑』

『ボールが回ってこなかったんだから仕方ないだろ?俺のイケてるシーンは、この動画には入ってないみたいだ(・_・;』

30分くらいの動画は
エンドロールまでついていて
観ている仲間を喜ばせた。




部屋を明るくする。

深夜になってしまったが
まだみんな帰る気配もなく、
リサが太一の耳元で氷が少なくなっていることを伝える。

『俺、買ってくるよ』と太一が立ち上がると
『俺も行こう』と
さとし。

2人でマンションを出て
坂道を下る。

『雨、あがったな』
さとしがタバコに火を点けた。

『さとしさん。僕の妻のことですけど』
太一がボソッと言った。

『ん?リサ?』

『ずっと前から、さとしさんと付き合ってるって知ってましたよ』

『急に何、言い出すんだ?』さとしが笑った。

『妻のことを1番理解してるのは僕です。
 リサの気持ちがさとしさんのせいで揺れていることに気づかないわけ、ないじゃないですか』

『なんの話だ?笑』

『僕が出張でいない夜、
リサが電話に出なかったり
さとしさんの香水の匂いをつけて帰ってきたりするのに』


吸いかけのタバコが
さとしの指から足元の水溜りに落ちた。

小さな音をたてて火が消えた。


『知ってて黙ってたのか?』


『僕はリサの好きなものを取り上げるほど、
 心が狭くないんで。 
 でも、事実を知ったころは
 今みたいに冷静に話せるなんて思ってなかったですけど。
 あ、リサには僕が2人のことを知ってるって
 言わないでくださいね』
と、太一は冷めた目でさとしを見た。


『どうして?
 こうなった以上、
 話し合うべきじゃないのか?』


太一は首を横に振った。
『少しは僕の身にもなってください。
 今まであなたたちにはウソつかれて、
 はぐらかされてきたんですよ。
 仕返しって言ったら言葉が悪いかな。
 このまま、僕にバレたらどうしようって
 リサには緊張しながら生きていってもらおうと思います。
 さとしさんも無理して、
 リサと別れてくれなくてもいいですし。
 急に距離を置かれたら、リサも戸惑うでしょうし』

『おい。。』


『ひどいですか?僕とさとしさんが逆の立場ならどうしますか?考えてみてください』





  現在、妄想中のストーリー。
  覚書です。