地方の駅のロータリーに一台のタクシーが停まった。
茶色い長髪の若い男が後部座席のドアを開けて降りる。
車内に手を伸ばすと、その手のひらを別の手が握った。
引き出されるように女が降りてくる。
男に向かって笑ったのは
kyokoだった。
男はtakuといい、kyokoの腰に腕を回し
支えるように歩き出した。
都市行きの高速鉄道の特別シートに並んで座る。
車両は静かに動き出した。
『足、大丈夫か?』
『うん、平気』
kyokoは足首を捻挫していた。
『向こうに着いたら
どこかで車椅子、借りような』
『takuって、そんな過保護だっけ?笑』
数時間後。
目的地の駅に着く。
またタクシーに乗り
2人はtakuが以前泊まっていたホテルに向かう。
空き部屋があった。
フロントでキーを受け取る。
さらに
怪我人がいるから車椅子を借りれないか?と
takuは聞いた。
フロントの女性がすぐに用意してくれた。
『自分で歩けるから、いいのに』
kyokoは遠慮した。
『俺たち、一度もデートらしいデートって
してこなかっただろ?デート、したいんだ。
俺が押すから、この街
案内してくれよ』
ホテルを出る。
紅葉し始めた並木の坂道を、ゆっくりと下る。
今まで見たことが無かった、というより
出会った頃はそうだったような気がする
穏やかな表情のtakuを見て、kyokoは
ほっとした。
辛かった何年かが
夢のように思えてくる。
takuを
あんなふうにさせてしまったのは
自分にも責任があった、、
と改めて思う。
何ヵ所かの
フォトスポットを巡ったあと
フレンチの店で夕食をとった。
ワインを口にするのも
何ヶ月ぶりか、だった。
それから
街灯が照らすホテルへの道をゆっくりと登っていく。
ホテルの回転ドアに、
車椅子を押したままのtakuがためらった。
『俺かお前か、どっちかが身体、
挟みそうだな(・_・;
せーの、で入ればいいか』
『うん笑』
『せーのっ』
うまく流れにのり
ドアをすり抜けた。
『さすが、俺、、』と言った瞬間
黒い人影が横切った。
どすっと重い音がして
takuがその場に崩れ落ちた。
『taku?!』