ひとけのない伝統家屋に
ビニは帰ってきた。
明日は久しぶりに妻と娘に会える。
酔って眠い目をこすりながら
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。
リビングの窓を開けると
南山タワーが見えた。
冷たい空気に体が震え、
窓を閉めた。
トオル。。。
彼の存在も忘れてしまいそうに、
幸せな毎日だった。
自分も家族を持ち、
今ならトオルのことも許せる気がする。
彼女(キョーコ)にとって、
トオルはかけがえのない存在だと理解できた。
承憲に言った
“運命と立ち向かう”
これはまさに自分のために言った言葉だ。
あの頃。。。
Seoulに戻ってきて
母から引き継いだ仕事をこなすため、
ビニは毎日忙しく過ごしていた。
ヒトミはホテルに勤務しながら、義母の介護をした。
ビニとヒトミは
慌ただしく籍を入れ、二世帯同居をする。
披露宴は母の体調が良くなってから、と決めていた。
義母は国籍への不満と、息子よりかなり年上だと言うヒトミに
何かと辛くあたった。
ヒトミは
ビニに愚痴も言わずに献身的に義母の世話をした。
義母が徐々に回復し、
会社の業務にも復帰できるまでになる。
ある夜、ビニが遅く家に帰ると
ヒトミがトイレから出てくるところだった。
『おかえりなさい』
『ただいま。どうかした?顔色良くないけど』
『お疲れのところ、お話があるんだけど』
いつもと違うヒトミの様子。
『わかった。とにかく座ろう』
『離婚してください』
『え?何?母さんにまたキツい事、言われた?』
『違うの。
お母さまはだんだん優しくなられて、
本当に嬉しいの』
『じゃあ、理由は?』
『妊娠しています。
でも、あなたの子どもではありません』
ビニは、血の気が引く‥という感覚を始めて知る。