『なんだよ、母さん』

『まったくあなたって子は‥好きなことばっかりして。思いつきで生きてるみたいね』

母のいつもの小言が始まった。

『ちゃんと考えてるよ。
 苦労は買ってでもしないとね』

『苦労しないで生きてる人、
 世の中にたくさんいるじゃない』

『俺みたいな男は
 自分を虐めてでも
 苦労したほうがいいんだ』

『何かあったの?
 懺悔のつもりで話してみなさい』

『(笑)ただの好奇心じゃないの?』
承憲は笑った。

『ここに帰ってきてからも
 全然楽しそうじゃないじゃない。 
 せめてアドバイスの1つくらい、
 させて欲しいわ』

『日本にいた時にね、
 好きな人が出来たんだ。
 結婚するつもりだった』

『日本人はダメよ💢』

『絶対そう言うと思った。
 その上、彼女は歳上で子供も1人いた』

『あなたみたいな人生経験の浅い子が。。
 若い男子が
 憧れる要素満載だわねショボーン

怒ると思っていた母の発展的な言葉に
調子が狂う。

『人生には色々な出会いがあるもの。。』
少し母は遠い目をした。


『最初に母さんに相談すれば良かったのかな
 (・_・;
 父さんに一度、会わせたことがあるんだ』

『お父さんに?私は何も聞いてないわよ?』

『最初から母さんには知らせないほうがいいって言われてた』

『そう‥』

『父さんに反対されて、
 俺は親子の縁を切る、と彼女に言った。
 でも、その結果
 彼女に気の毒なことをしたんだ。
 何より彼女の息子の期待を裏切ってしまったことが申し訳なくて』

『辛かったでしょうね。その方たち。 
 私だったら耐えられたかしら。
 今はその親子は?』

『別の男と暮らしてるはず』

『なんなの、それ』

『あれからもう何年も経ったけど、
 まだ後悔してるんだ。
 今ならきっと。。』

『でも、もう忘れなさい。
 ね?お見合いしない?
 候補者なら、たくさんいるわよ』

『放っておいてよ、母さん』

『あなた、誰とも結婚しないつもり?』

『うん。
 もしするとしたら、彼女しかいないです。
 付き合っていた頃より
 存在は大きくなってます。。。』

『呆れてものが言えないわ。
 あなた、、、そんなにその女の人がいいわけ?
 さっきから
 言ってることはストーカーと同じよ?』

『実行には移せないけど、考えてることは
 ストーカーと変わりないと思います』

見た目も性格もいいのに。。。
 育て方、どこで間違ったのかしら。。

 一度、会ってみたかったわね、その人に』



母との会話で気が楽に、
そして会いたい気持ちが強くなる承憲。


『いつか、母さんに会ってもらいます』



『ダメだったら諦めなさいよ』
“諦めなさいよ”と言った時点で、
母は
自分の理想も含め、全てを諦めた。
息子には何を言っても無駄だと言うこと。
ならば
できるだけ味方になってやろうと。





『わかってます。
 少し落ちついたら、日本に行ってみます』


半分、
茶化しながらも話を聞いてくれた母に、
別れた最大の要因‥
子供の父親がハン会長であることは
息子はどうしても
言えなかった。