今朝の撮影は順調に進んだ。
そらの演技に対する李からのダメ出しも無く、
監督たちからも安堵の表情がうかがえる。
午前の予定をこなし、

『15時から、撮影を再開します!
 送れずに戻ってきてくださいね!』
A Dが
散らばっていく出演者たちの背中に大声で念押しする。


私服に着替えた李がそらに声をかける。

『今日のは良かったよ。文句の付けようがなかった』

『ありがとう。貴方の特訓のおかげだわ。
 午後からもよろしくね』

『昨日、せっかく誘ってくれたのに
 断って悪かったな』謝る、李。

『いいのよ。予定があったんでしょ?』


『ウソをついた。
 あの時、どうしても部屋を出たかったんだ』


『なぜ?』

『また昔みたいな気持ちでお前を抱きしめそうになったから』


そらは笑った。
『今でも抱きしめたくなったら、電話一本で呼び出してくるじゃない笑』



『その時とは違う。だから、昨日
 1人になって頭の中を整理したかった』



『ねぇ、政宰‥仕事以外の話題はやめよう? 
 これからは仕事の仲間として付き合いたい』


『どうした?急に』


『ごめんね、空港に行かなきゃ。また後でね』
李をその場に残し、
そらは撮影所の前から
タクシーに乗り込んだ。


金海空港のターミナルでタクシーを降りた。
すぐに宋の後ろ姿を見つけた。



着いてすぐに宋の姿を見つけられたのは偶然ではない。
大勢の人だかりを探せば良かったのだ。
その中心に宋がいると確信していたからだ。

日本人の奥様たちに囲まれている宋は
そらに気づいた。

やっと彼女たちを振り切り
彼女たちが追ってこられないところまで移動した。

『嬉しいな。わざわざ見送りに来てくれるとは思っていなかったよ』
宋は素直に喜んでいる。

『いい知らせがあって早く伝えたかったから』

『なに?』

『ここでの撮影、もうそろそろ終わりそうなの。
 Seoulに戻って残りを撮ることになるわ。
 予定より早く戻れる』

『本当??いよいよドラマも終盤か』

『うんうん。Seoulに戻ったら  
 たくさん会えるしおねがい
 
『年末、もし2人とも無事に放送が終わったら
一緒に祝おう』宋が提案する。

『いいね!(蘇たち)みんなでお祝いしましょう‥あ、そろそろ時間だね』
アナウンスに気づいて時計を見るそら。

『もっと話したいのに』宋は名残り惜しそうだ。

『また電話するから』

『必ずだよ!』

そらは宋の姿が見えなくなるまで見送り、
再びタクシーで撮影所に向かう。



後部座席の窓から
釜山の青い空を見ながら
そらの頭の中に、さっきの李の言葉が響く。