サトシとそらが
踊る人の中で空間を確保したとき
曲が変わる。

『君が好きだって言っていた曲だよ。
 リクエストしておいたんだ』

サトシは黒のロングドレスを着たそらを
強い力で自分に引き寄せた。

『会っていたときに、
 そんな話をしたことがあっただろ?
 少しでも、君に近づきたくて
 ネットで調べたりしたよ(笑)
 ……何か話せよ』
サトシがそらの下唇をつついた。

『やめて。人が見る』

『恥ずかしがるような仲じゃないよな?
 彼も見ていないし』

そらが席のほうを振り向くと
アキラはリサと話し込んでいるのが見えた。

『さすがだよな、お前が金をかけて磨いた男。
 俺を含め、
 たくさんの男たちから巻き上げた金でな(笑)
 ここから見ても光輝いて見えるよ』

そらが最後に会ったときのように、
サトシは嫌味を並べたてた。

『ありがとう。
 でも、貴方が一番いいスポンサーだったわ』

『今でも、いいお客がついてるのか?
 せっかく会えたし…どう?また、あのときみたいに』

最悪な再会であっても、
懐かしい匂いに心が揺らぐ。

『もう忘れたわ。あなたに興味もない』

そらは離れようとするが
サトシの腕で腰を固定されていて動けない。

『欲しくないのか?』

『何を?』

『んー…ここだったら、ユーロとか(笑)』


(お金?)
少しの期待をしていたそらは
現実に戻された。

YumeJiのママに託したお金は、
サトシの手に渡っていないのか?
この人はまだ、私がお金を欲しがっていると思っているのか?


『そうね…考えてみるわ♪
 ユーロって、魅力的♪』
そらはわざと明るく答えた。

ふとサトシの腕の力が弛み、
そらはサトシから離れた。

『ごめん…ちょっとお化粧を直してから、席に戻るわ』
その場を切り抜けたそらは
フロアを横切り、通路に向かった。

着なれていないドレスの裾が、細いヒールに引っ掛かって歩きにくい。

足元を気にしながら、なんとかデッキまでたどり着いた。

人がいない場所を探して、
手すりにもたれかかった。

星が出ている。
澄んだ空気を思い切り吸い込む。