それから2ヶ月。
亮太は結婚相手との結納を滞りなく終えた。



きょうこの所属する部署が
やたら忙しくなり、
雅樹は外回りがメインで
姿を見かけるのは
朝の10分ほど。

この一週間は
『おうっ』
『いってらっしゃい』
の言葉を交わす程度だ。
しかし
そのすれ違いざまに
きょうこは、雅樹に毎日渡してるものがある。
『ありがと。いってきます』


亮太は午後から外に出ることが多く、
きょうことはその前に
社員食堂で
ランチを済ませることが増えていた。

亮太の結婚が決まってからは
二人が友人関係であることだけは
周囲の知ることとなった。

きょうこが
自分で作った弁当を食べていると
いつものように
『おつかれ』と、
向かいに亮太が座った。

亮太が置いたトレイには、
きつねうどんと
カレーライス。


きょうこ
『それ、主食と主食じゃない?(笑)』
亮太
『え?きつねうどんがメインで、カレーライスはおかずだけど?(笑)』

きょうこ
『ちゃんと野菜食べなさいよ(笑)』
亮太
『最後に野菜食べたの、いつだったかな』
きょうこ
『ちゃんと考えて食べてよ。
 太っても知らないからね』

そう言いながら
きょうこは
バッグに入れていたパックを取り出した。

亮太
『なに、これ?』
きょうこ
『野菜、刻んできたから、
 先にこれ食べて』
亮太
『まじ?ありがとう。
 さすがだな』

ただ
刻んだだけではない、
見た目と栄養バランスは計算済み。
ドレッシングはいかにも手作り。
きょうこは
保冷剤も仕込んで、
新鮮なサラダを用意してきていた。


もともと、
亮太の胃袋は掴んである。




きょうこは、
亮太の好きなものばかりをあえて詰めた弁当のおかずを頬張り、
『式の日取りって決まったの?』

亮太は
サラダを食べ終え、
カレーライスときょうこの弁当を見比べた。


亮太『換えてくんない?』
きょうこはカレーライスときつねうどんを交互に見た。

きょうこ『きつねうどんとならいいよ』

亮太はすんなり弁当をゲットした。

亮太
『式の日取り、うん。決まった。
 11月の1日』
きょうこ
『そかそか、おめでとう。
 忙しくなるね』
亮太
『ありがとう。
 でも、やっぱり。。。』


きょうこ
『やっぱり、、、なに?』
亮太
『やっぱり、これからも
 この弁当をずっと食べたい』

(やっぱり、そう言うだろうと思った)
きょうこ
『きっと美味しいの、
 奥さんが作ってくれるでしょ』

結婚を白紙に戻そうなんて
きっと亮太は思っていない。
私は
あわよくば、、、だが。
それなら、ギリギリのところまで
ひきつけてみよう。
ひきつけたところで
たぶん、
以前の二人には戻れないけれど。