終電の時間まで
二人で歌い続けて、
私は自宅の最寄り駅まで帰ってきた。
雅が家まで送ってくれるというのを断って、
家までの道を一人で歩いた。

スマホが鳴った。
画面には『亮ちゃん』の表示が出ている。

()『こんばんは。どした~?
()『実家から帰ってきて、もうすぐうち。
  今から、こっち来ない?
 
ほらまた出た、自己中。。
 『今からって、もう電車ないし
 『んじゃ、そっち行くから起きて待ってて
 『明日じゃ、だめなの?
 『うん、ダメ(笑)
 『(食べるもの)なんも用意してないよ?
 『ぜんぜん、いいよ~

私はたいへん彼には甘い。
彼の希望は、ほぼほぼ通す。

たぶん、タクシーで
到着するまで30分。

“なにもない”といっても、
何も用意しない私ではない。

来た道を戻って
コンビニに入り、
パンとヨーグルトを買う。

午前2時にもなろうとしてるとき、
亮がやってきた。
実家の親に持たされたという巻き寿司の入った袋をぶら下げて。。

いつも通り、
二人掛けのソファに並んで座る。
巻き寿司を頬張る亮。
目の前のテレビは深夜のバラエティ番組を映している。

 ()『今日はあれからどうしてた?
 ()『雅が誘ってくれてさ、
   さっきまで一緒だったよ。 
   ラーメンご馳走になって、
   そのあとカラオケ
  『へー。楽しかった?
  『もちろん、楽しかったよ。
   持つべきものは友達よねぇ
  『雅に、俺の話、した?
  『うん、したよ
  『呆れてたか?
  『うん、呆れてた。
   当然よね?
   で、
   今日の実家での話は
  『うん、行ったらさ。
   見合い形式みたいになってて、
   ビビったよ(笑)。
   でもさ、
   相手の子もわりといい感じで…
  『へー、よかったじゃん
  『うん、やっぱり結婚しようと思う』 
  『するんだ…
   ね?やっぱり結婚、やめて?って
   私が言ったら、やめてくれる?

しばらく沈黙。


  『え?きょうこは、
   そんなこと言わないでしょ?(笑)
   この前、ちゃんと確認したよね?
   今日あった子はいい子だと思うけど、
   俺の気持ちを全部
   フォローしてくれそうにない。
   だから、
   いい関係で  
   これからもずっといようよ

  『んとね?
   この前は突然だったから
   聞く余裕がなかったけど、
   私は
   この部屋で、亮ちゃんが
   ときどき息抜きしに来るのを
   待つの?

 
  『きょうこも誰か、いい人が見つかったら
   結婚してもいいんだよ。
   そりゃ、その誰かってのが
   現れないに
   こしたことはないけど、
   俺だけ結婚したら、不公平じゃん?

 
 ここで待っていろ、と言われれば
 私はもちろん一人で待っていただろう。
 
 何年も経って冷静になれば
 解ることだろうけれど。。

 今までずっと
 亮の言葉の端々から
 『私への愛情』を
 拾って、詰め合わせていた。
 さっきの言葉もそうだ。
 『ダレカッテノガ、アラワレナイニコシタコトハナイ』
 つまり『現れないで欲しいと思っている』。
 
 自分に
 都合のいいように変換してきた言葉もある。
 亮の言葉にコントロールされていること、
 実は言う通りにしていることは、
 何も考えなくて
 楽なのだ。

 結局、今日も
 『うん。
  もし私が結婚しても、今まで通りね』と答えることになった。


 『… … とか、どう?

 『え?ごめん、聞いてなかった
 深夜のこと、睡魔で意識が途切れ始めていたころ。
   
 『雅と結婚するとか、どう?』 

亮太は
これ以上にない!くらいの自信で
きょうこを驚かせた。