雅樹(以後、雅)は
同じ部署で働く同僚で
きっかけは、思い出せないが
よく一緒に
仕事の帰り、
飲みや食事に出かけている。


休日でも
会社の近くに出没するであろう
雅に、
今日は
たまたまにでも会えればいいな、と思っていた。


さっきまで
男に会っていて
また別の男を
待ち伏せするなんぞ
ルール違反じゃないか。。
と思いながら、
理由付けするなら、
今日は
どこか
気持ちが休まる場所が欲しかった、から。


雅が私の隣に座る。
マスターが
コンッと軽い音を立てて置いてくれた
バーボンの入ったグラスを手にとり、
カシスオレンジのグラスにコツンと当てた。

『はい、おつかれー。
 休みの日にここに来るって
 珍しくない?』

『だね。
 たまたま近くまで来たからさ。。
 いるかな?と思って』

私は、無意識に
鼻から息がもれていたようで。。

『どした?何かあった?
 亮太がらみ?』

雅は
同じ会社内の別フロアで働く亮太(前述の彼)と、
私が付き合っていることを
社内で知る唯一の人物である。

『んまあ、ないこともない』

『じゃあ、
 そろそろ結婚しようよぉ
 とか、
 甘えた声で言われた?(笑)』

『うーーーん。
 それもちょっと違う』

私は苦笑いするしかなかった。

『まあ、今日はなんも聞かないことにする』

『ありがとね』


重いドアが開き、
入ってきたのは
雅の飲み仲間。

『ちょっと挨拶してくる。
 待ってて』

雅は、その場を離れた。


一本の線を
踏み越えてくることもなく、
その線から
離れることもなく
いつもそこにいてくれている、という安心感。

この人と結婚する人は 
きっと幸せになるんだろうな。。。
と、雅と
自分以外の女性を
登場させて
新婚生活を想像してみたりする。

女はそういうのだけでも
十分
酒が進む。


『マスター、同じの
 おかわり。
 さっきのより濃いめでね』