無題1
無題2

 
 兄を伴い、
 我が息子が
 部屋を出て行く。


 彼は
 1人残され
 その場にたたずんだ。

 戻ることのできない
 いとおしい日々の記憶が
 蘇ってくる。
 カイに本当のことを言えば、
 こんな別れ方をせずに済んだのかも知れない。
 
 

 


 

 部屋を出た二人。

 父親が
 何度か
 カイに声をかけたが
 息子は返事ひとつしなかった。

 
 新幹線のホームで
 カイはやっと
 口を開いた。


 「お父さん、
  今日は連れてきてくれてありがとう。
  あの有名な
  煌(キラ)さんに逢えるなんて、
  夢のようだったよ。

  でも、
  あんなすごい人が
  自分の本当の親だと知っても
  少しも嬉しくはないんだ。
   
  遺伝子を残すために・・っていうのは
  実際に聞くと
  相当ショックな話だったから・・。


  クローンが造れる時代なんだから
  わざわざ僕が生まれてこなくても
  なにか方法があったんじゃない?(笑) 」

  「あいつはお前に
   あんな言い方をしたけれど、
   本心じゃないんだ」


 
  「お父さんは、
   あの人と兄弟だから
   かばうのかもしれないけど
   普通、
   そういう考え方は
   間違ってるって
   注意するものじゃないの?」



 

 乗り込む予定の新幹線がホームに入ってきて
 2人は再び黙りこんだ。
 


 
 到着した新幹線の
 指定席に落ち着き、
 カイは
 再び口を開く。


 「高校卒業するまでは
  父さんと母さんのところにいさせて。
  あとは
  家を出て
  自分でちゃんとやってくから」


 「進学しないのか?」
 
 父は
 どんなときも二人の息子に対して
 穏やかに話す人だ。

 「急に忙しくなったよ。
  もう
  そんな時間は無くなったんだ」

 「そうか。
  お前の人生だからな。
  選んだ道を進め。
  
  ただ、、。
  お母さんのことは
  いつでも大事に思っていてやってほしい」


 「解ってるよ。
  僕のお母さんは
  この世の中に1人だけだから」