6月25日(日) 横浜能楽堂
『私が選んだわけ』 馬場あき子 聞き手:葛西聖司
(休憩)
能 『二人静』 (喜多流)
シテ(静の霊)佐々木多門 ツレ(菜摘女)大島輝久 ワキ(勝手明神の神職)大日方寛
笛:一噌隆之 小鼓:飯田清一 大鼓:佃良太郎 地頭:長島茂
面:シテ「小面」(作者不詳) ツレ「小面」(作者不詳)
今回は、馬場あき子さんが選んだシテ方と曲、そのお話に惹かれていた。お能より馬場あき子。
元アナウンサーの葛西さんが聞き手と言うが、前回は喋りすぎたので困ったなあ、と思っていたが、今回は馬場あき子の勝ち。
葛西さんにあまり口を出せない。
何しろ馬場あき子は、能が好きで好きで仕方がないご様子で、しかもご自分がお稽古した喜多流だから、あれもこれも話したい。いつものことなんだけど。
「多門ちゃん」のことは、そのお爺さんから識っているらしい。喜多流の、若手・中堅の伸び盛り、将来をしょって立つ人材と。
『二人静』のことも話したくて仕方がない。様々なエピソードを紹介。秀吉が所望したときのこと、金春太夫の対応のこと、宝生流で一旦廃絶させたこと、観世流のシテが常座で見つめる小書きのこと、相舞の合わせ方、吉野に逃げた大海人皇子のこと、等など。あたかも、観てきたかのように、おしゃべりになる。
これは、否応なく、その後のシテ、ツレなど役者に対するプレッシャーになっただろうけど、仕方ないのです。
『二人静』3回目。前回は、2021年1月の梅若研能会。シテが菜摘女で研能会の加藤さん、シテツレが里女と静の霊で紀彰先生だった。両シテみたいな。
今回は、同年配で仲の良い佐々木さん1973年生がシテ静の霊で、大島さん1976年生がツレ菜摘女という通常の配役。
特に小書きもなく、通常の演出。
特筆すべき箇所は、前場で、ツレ菜摘女に静の霊が憑依して、突然声も変わって「なにまことしらずとや」と語るとこ。憑依というのは当時の世では不思議なことではなかったらしいけど、それをツレの語りだけで、ゾクッとする様な演技をどうするか。ちょっとウトウトしていたのが、はっと目覚める位。
後場では、クセの舞、序ノ舞。両方とも相舞なのだけど、今回のお二人、ほぼぴったり息が合って、乱れない。
十分にお稽古していると、「合ってしまう」ものだそう。シテの位を守るために、ツレがわずかに遅れるとか、出来ないんだって。どちらかが間違えない限り、合ってしまう。
見事な相舞でした。難しいけど、要はお稽古ね、と納得。勿論二人の相舞は申し合わせくらいしか出来ないけど、普段のお稽古の動きで舞えば、というか、しっかりお稽古を積んでいれば、同じ動きになるはずだそう。
それにしても、同格のレベルの上手じゃないとダメだよね。誰と組むか。まさしく今回のお二人は、相応しいペアということなんだろう。
馬場あき子さんのお話のおかげで、素晴らしいお能になった。最高の解説者だよね。95歳。
来月16日が「この人この1曲」第3回目。これも楽しみ。