4月の1回目のお稽古で、『東北』クセを強引に「合格」を頂いて、さて次の曲ということになり、紀彰先生は、ワタクシに『采女』のキリを指定した。

 

『采女』?そのキリ?

その頃、観世御宗家シテの『采女』を、確か国立能楽堂で初回で観たのだけど、ああそう、という程度の印象しかなく、ましてや謡など口ずさめるようなモノではない。

しかし、師匠の指定に否やはあろうはずがない。きっと、きっとワタクシの技量に適した曲を選定して頂いているのだろう。

 

4月の第2回目のお稽古で、紀彰師がお手本を舞って頂いて録画。その日は、ご一緒に、何となく雰囲気と道筋を教えて頂く。「何も覚えなくて良いですよ」とのお言葉を信じて。

 

5月1回目。紀彰師の覚えてこなくて良いのコトバをそのまま信じるわけにも行かず、必死に、お手本録画を見て、型付け本の詞章を読んで、まあ、こんなモンかなと言うくらいには準備していく。

案の定、さてやってご覧なさい、といつものワキ座に近い定位置に座られて。

当たり前だけど、惨敗。お稽古の録画は、見るのも不快。

 

5月2回目に向けて、やはりちゃんと詞章とその意味を捉えねばならぬ、と前回の学習効果。

「謡曲集」上巻に載っていたので、それも熟読して。

少なくとも道順は覚えたはず、ということでお稽古に臨むけど、再び惨敗。

お稽古録画は、それでも、ちっとは見返せるようにはなった。

 

ちょっこっと、密かに自信を持って、6月1回目。頭の中ではシテ謡を含めて、キリの部分全部の謡が浮かんでくる。道順も完璧さあ、と。

しかししかし、またしても惨敗。

要するに、基本が出来ていないのだ。

カマエ。右腕のハリ。左腕もおろそかにしがち。

サシ。今まで出来ていたつもりなのは、なんだ~。

そもそも、お扇子を開いたときの右手の持ち方が、おかしいんじゃ無いのか。

右回りするときの、右足の向きとハコビ。左足をかけるときのタイミング。

基本じゃないかあ、と、我が精神状態は落ち込む。

まだ、6月1回目のお稽古録画を見ていないから、だけど、まあ、道順と型のあらましは出来ていると思う。

 

前回のブログで”躁ましまし”だったのが、翌日の午後に急に天候が荒れてきたのに符合して、ど~んと鬱化していた。

それでも6月1回目のお稽古に向けて、気を取り直してきたのに、どか~んと気分下落。

もう、お仕舞いのお稽古は無理なんじゃないか。大体10分もお稽古していると、立っているだけでフラつき、身体をまっすぐに維持するのにも困難。

もうすぐ、古稀=満70歳に達するのです。筋力不足。もはや、限界か、とも思う。

 

そんなときに、亀井忠雄師の訃報。6月3日(土)にご自宅で他界されたよう。なんでも前々日まで申し合わせをしていて、お元気そうだったので、急な訃報に、能楽関係者、ただただビックリ。81歳。大鼓の人間国宝。

我が身も考える。老いということ。