4月30日(日) 横浜能楽堂
「私が選んだわけ」 山口憲(能装束研究者) 聞き手:葛西聖司
(休憩)
能 『大原御幸』 (金春流)
シテ(建礼門院)本田光洋 ツレ(後白河法皇)櫻間金記 ツレ(大納言ノ局)山中一馬
ツレ(阿波の内侍)辻井八郎
ワキ(萬里小路中納言)福王茂十郎 ワキツレ(大臣)福王知登 アイ(従者)中村修一
笛:松田弘之 小鼓:観世新九郎 大鼓:國川純 地頭:髙橋忍
面:シテ「白曲見」(作者不詳・江戸初期) ツレ(大納言)「小面」(作者不詳・江戸中期)
ツレ「深井」(天下一河内作・江戸初期)
3人の方々が、それぞれ、能楽師と能の演目を指定するシリーズ。
今回は、能装束研究者の山口憲さんが選んだ『大原御幸』。山口さんは、能装束の立派な本を上程されていて、装束にはちょっと興味があったが、これにハマると大変だと思って買っていなかった。
最初のお話では、山口さんのこだわりというか、装束や面は、江戸中期に限る、明治以降は偽物だという話。
今回の『大原御幸』のために、11両の装束を、江戸中期のものを利用したり、その当時の糸や織り方などで再現したとか。
再現の為に、桑の植え方や、お蚕にもこだわる。勿論織り方や刺繍も。
面も、江戸時代物で、山口さんが所蔵しているものを使ったとか。
それは、『大原御幸』という曲の「位」に寄るものだとか。極めて高貴な方々の衣装は、それなりの位にあるものでなくちゃダメだし、明治以降作成のものはそうでないし、面も同じで、しかも、それに相応しい能楽者が用いて演じなければならぬ、という強いこだわり。
否応なくも、お能を盛り上げる。
期待は膨らむが、大体見所からそんなに装束の細かいところまで見えないし、理解できないよ、という若干の不安も。
能『大原御幸』、初めて。ストーリーは有名。平家物語の灌頂之巻そのまま。壇ノ浦で、子(孫)の安徳天皇は死なせながら、生き延びてしまった建礼門院たちを、舅の後白河法皇が見舞う。花摘みから帰ってきて対面し、望みに応じて壇ノ浦の戦いを悲しみの中で語る建礼門院。そして、帰って行く法皇たち、それを見送り再び隠遁生活に戻る建礼門院たち。
ま、諸行無常の世界なのですが。
語りと謡が多くて、舞は無く、ちょっと動くだけ。
期待した装束や面は、案の定、オペラグラスで覗いても解らない。
大体、後鳥羽上皇はともかく、建礼門院たちは、いわば「落ち」て生き延びているのであって、装束はそんなに立派であるはずないでしょ、とかいう心あり。
難しい曲だ。地謡の謡は、金春流の浮きが多い節で、ワタクシにはなじめない。
それやこれやで、まあ難しかった。筋は良く解っているから眠らなかったけど。
建礼門院の本田光洋さんにしろ、後鳥羽上皇の櫻間金記さんにしろ、超ベテランの能楽師が、間違えることもなく長く「語る」のはさすがでした。
全体的には、能装束研究者の山口さんの思いが先行しすぎてしまった企画だと思いました。位とか江戸期だとか。