4月16日(日) 梅若能楽学院会館

能 『胡蝶』・脇留

 シテ(都女 胡蝶の精)鈴木矜子 ワキ(旅僧)殿田謙吉 アイ(都一条辺りのもの)若松隆

 笛:藤田次郎 小鼓:幸正昭 大鼓:柿原弘和 太鼓:小寺真佐人 地頭:梅若長左衛門

 面:シテ「若女」

狂言 『茶壺』 (大藏流 山本東次郎家)

 シテ(目代)山本則秀 アド(使いの者)山本凜太郎 アド(すっぱ)山本則重

仕舞 『笠之段』 松山隆雄

   『鵺』 角当直隆

(休憩)

能 『善知鳥』・替之翔

 シテ(老翁之霊 漁師の霊)梅若紀彰 ツレ(漁師の妻)松山隆之 

 子方(千代童)松山こう美 ワキ(旅僧)舘田善博 アイ(外浜の浦人)山本則秀

 笛:槻宅聡 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:亀井広忠 地頭:梅若楼雪

 面:前シテ「朝倉尉」(多分) 後シテ「痩せ男」(多分)

 

楽しみにしていた梅若定式。紀彰師シテのお能があるのだ。

 

開始前に、さるお方から、梅若の素敵な扇を頂く。いつ使おうか。とてもうれしい。

 

最初の能は『胡蝶』。3回目。前回は2021年2月の式能第2部、紀彰師シテ。更に、キリは、お稽古仲間が仕舞を舞っていたので親近感はある。

しかししかし、紀彰師シテの『胡蝶』が目に焼き付いていたせいか、ちとがっかり。シテの鈴木矜子さん、女流でどうか、ご高齢だからどうか、という不安はあった。

前シテ都女の登場で、常座に立つのだけど、腰が決まっておらず、フラつく。詞章を忘れ、絶句し、後見に大きな声で複数回指摘される。それでも、節がある部分になると、囃子方が援助したか、決まりだして、ホッとする。

後場は、舞が多いのだけれど、作り物の梅にぶつかったり、袖を巻き上げるのに失敗したり、冠モノにかかってしまったり。

要するに、観ていて不安なのです。じっくり鑑賞できない。

地謡もまとまらない。

こんなことで、舞台に緊張感が出ない。女流はダメなのだろうか、とさえ思ってしまう。鈴木矜子さんシテは初めて観たのだけど。

そんな中で、アイの若松さん、しっかりとした声と語り口で、しめる。さすが、東次郎家。ワキとアイ語りがしめるお能って、なんなのさ。

 

その東次郎家の狂言『茶壺』。何度も。

凜太郎さんが、酔っ払って出てくると、ふむふむと思う。よくあそこまで動いて、舞台から落ちない。まあ、面を被っていないから。

則重さん、則秀さんの演技も問題なし。どちらがホンモノの所有者か争うなかでの、相舞。ちょこっとズレる舞いが難しい。

これもさすが山本東次郎家。しっかりしたお稽古がなされているのでしょう。

 

仕舞2曲。

当日配布チラシには、『田村』キリ山崎さんもあったけど、略。地謡にもでていなかったので、体調不良か。

『笠之段』松山隆雄さんは、ベテランらしく、お歳なのにしっかりと。『鵺』の角当直隆さんも、中堅の舞いでしっかりと。

 

そしていよいよ『善知鳥』。3回目。

だけど、ビックリ仰天。こんな凄い『善知鳥』があったか。今まで観た『善知鳥』はなんだったか。凄み、迫力。

親鳥と子鳥を捕まえて、殺すさま。悲しい、卑しい職業なのだけど、実際に捕ることになると、凄まじい迫力なのだ。その格差というか、避けられない悲しみ。

後場で、子方が後シテ父の亡霊に会おうと近寄るが、後シテが抱こうと近寄ると、ホントに怖そうに後ずさる。あの子方、後シテの迫力に負けて、ホントに怖かったんじゃないのか。幽霊だから怖いのではない。漁師のさまに怯えるのだ。

 

この子方、可愛いの。登場してからずっとワキ座で座っているのに、ピクリともせず、足の痺れも感じさせず。それで、先の演技。

 

地謡のまとまりと迫力。素晴らしい楼雪先生の統率力。

 

定式能では毎回楼雪師が、演目解説を書いてくださっている。

その中で、今回の『善知鳥』は、カケリの小書きについて記されているし、その後の舞いについて、「今回、紀彰には私が工夫した型も織り交ぜて教えました。」「これは継承、ということを考えた上でのことです。」「また、昨年の『定家』に続き、今回も私が地謡を勤めますので、ここでも伝えられるものをしかり伝えていきたいと思っております。」

だと。

新しい『善知鳥』が産み出されたと感じたが、それだけではなくして、紀彰師への「継承」。弟子としてはうれしいなあ。

ワタシたちは、なんと素晴らしい師匠に教えて頂いているのか。弟子とまで言えるレベルではないのだけど。