3月8日(水) 国立能楽堂
狂言 『左近三郎』 (大藏流 山本東次郎家)
シテ(左近三郎)山本則重 アド(出家)山本則秀
(休憩)
能 『采女』・美奈保之伝 (観世流 観世会)
シテ(里の女 采女の霊)観世清和 ワキ(旅僧)森常好 アイ(里人)山本東次郎
笛:杉市和 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井広忠 地頭:観世喜正
面:前シテ「まさかり」 後シテ「小夜姫」
今日は、狂言、能とも初見の曲。珍しい。
狂言『左近三郎』。当初発表は、シテが山本則俊で、それに期待した面もあったが、やはり無理でした。体調悪化なのでしょう。もう則俊さんの狂言、観られないかもしれない。交替の則重さんでもまったく問題はないのですが。
仏教五戒(殺生、盗み、邪淫、嘘、酒)の内、殺生戒を破って漁師として生活しているシテ左近三郎は、漁に出かけようとするときに、アド僧に出会ってしまう。不愉快なので、なぶってやろうと、携帯した弓矢で威しつつ、魚を食うこと、酒を飲むこと、妻を持ったことがあることを白状させる。
その後、殺生戒を巡って、シテ漁師とアド僧の言い争いというか、禅問答というかに発展する中で、却って意気投合し、花と鼻の洒落言葉で、互いに笑ってお終いという、あっけないストーリー。
五戒の、庶民的な、都合の良い解釈。建て前と本音。
能『采女』。本来は長い曲のようだけど、「美奈保之伝」という小書きによって、猿沢の池に身を投げて死んでしまう采女物語に集約したモノ。それでも95分の長丁場。
現代では、美奈保之伝ではない全曲が上演されることはあるのだろうか。
美奈保とは、水穂、水面を意味するらしい。だからか、前場で采女が入水するときに、「吾妹子が、寝ぐたれ髪を猿沢の、池の玉藻と、見るぞ悲しき」という和歌が繰り返し出てくる。長い髪が、池の面にゆるりと流され広がる風景かな、と思う。
後場は、采女の霊が、衣被ぎして登場し、女子でも成仏できるという仏教礼賛の話。草木国土悉皆成仏、変成男子とか。
そして、後シテの序ノ舞。これが素晴らしい。ゆったり、ゆったり、ゆーったりした序ノ舞。引き続くキリの舞もゆっくり、ゆっくり、ゆーっくりと舞う。
ワタクシの拙い仕舞お稽古経験でも、とにかくゆったり舞いは難しい。筋肉使いまくり。
それを、観世御宗家、立派に、素晴らしく、見応えある風に。最後、橋掛かりから去るまで、乱れなく、ゆっくり舞いを続けた。
東次郎さんのアイ語り。チト眠くなってしまったけど、はっきりとしたお声で。則俊さんより年長なのにね。
老いるということ、様々なり。
面が、珍しい。「まさかり」と「小夜姫」。聞いたことがない。新作品だろうか。”写し”ではないような。オペラグラスで覗いていても、解らなかった。