11月23日(水・祝) 国立能楽堂

『翁』

 翁:長山桂三 三番叟:野村萬斎 千歳:長山凜三 面箱:野村裕基

 笛:松田弘之 小鼓(頭取)大倉源次郎(脇)清水和音・大倉伶士郎 大鼓:亀井広忠

(休憩)

狂言 『二千石』 (和泉流 野村万作家)

  シテ(主)野村万作 アド(太郎冠者)高野和憲

独吟 『江口』

  梅若楼雪

舞囃子 『恋重荷』

 シテ:観世銕之丞

 笛:藤田貴寬 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井忠雄 太鼓:小寺真佐人

 地頭:梅若楼雪

(休憩)

能 『融』思立之出・十三段之舞

 シテ(尉 融大臣霊)長山桂三 ワキ(旅僧)森常好 アイ(所の者)石田幸雄

 笛:竹市学 小鼓:成田達志 大鼓:山本哲也 地頭:浅井文義

 

長山禮三郎三回忌追善能ということでしたが、申し訳ありません、長山禮三郎さんという方は存じ上げずに参加。

野村萬斎の三番叟を、能舞台でキチンと観たいというだけの理由でした。先日、評判の高い萬斎の三番叟を、ホールで観て、消化不良だったので、本企画を知ったときに、さっと取ってしまったのでした。

 

その『翁』。もう10回目。面箱の裕基君が先頭で、翁の長山桂三、三番叟萬斎と続く、翁渡り。ふむ、悪くはない。取り分けて面箱の野村裕基、ゆったりと気品を持っていました。

小鼓頭取の源次郎先生、彼は、入場だけでオーラがある。萬斎の入場もオーラ。

しかし、翁の登場でももう一つピシッと感じないのは、贅沢希望というモノ。何しろ、2020年1月の紀彰先生の翁を観てしまっているから、あの翁渡りの感動と舞台支配力を観てしまったモノとしては、それ以上でないと満足できない。

翁の最初の拝礼は、背筋もピンと伸びていて良かったのだけど、何しろ、ねえ。オーラが。

とーとーたらりと謡い出すと、その声の良さには関心。良い声だなあ。

若い千歳の舞。長山凜三。桂三の息子。舞は若さで伸び伸びしていたが、声が弱い。

楽しみにしていた萬斎の三番叟。素晴らしかった。けど、なんだろうか、型が少し違うと感じました。烏跳びもなかったような。こういう型もありなんでしょう。

小鼓頭取源次郎先生のリードによる小鼓連。上手だなあ、さすがだなあ。

今回は、脇能がないから、そのまま全員退場。そうだよね。

 

休憩後、番組表通り、独吟『江口』梅若楼雪先生の登場を待っていたら、急なアナウンスで、狂言を先にやりますと。どうしたのかしら、とここで不安感。

 

狂言『二千石』。万作のシテで見応えはあったし、キチンと考え抜かれた振りと型で魅了される。90歳を超えているんだよ、とここでも楼雪先生と比較してしまう。

内容は相変わらず、不明のまま。二千石というのは、中国の官位のことらしいので、なんとか解るかと思ったけど、ダメでした。誰か、ちゃんと解説してくれないかなあ。

 

逆順になって、楼雪先生の登場。体調は更に悪化しているかのよう。山崎正道さんと馬野正基さんに抱えられて、ホントに大丈夫かというような登場。貴人口は用いず。椅子を持って来たのは梅若会の小田切君。

で、そのまま、山崎さんと馬野さんが両脇に座って、連吟になってしまった。楼雪先生のお声もやや弱いような。

 

引き続いて舞囃子『恋重荷』。もともとこの地頭が楼雪先生で、後列を山崎さんと馬野さんが囲む地割りだったから、一旦独吟で入退場して、もう一度入場するのを避けるためもあって、独吟『江口』と狂言の順を入れ替えたんだ。これは納得。

でも楼雪先生、じっと座って謡うことができない。だんだんと身体が傾いてくる。後ろに控える小田切君が支えて、戻す。お扇子を袴帯から出したり戻したり。じっと出来ない。心配で心配で、不安感が先に立ってしまう。

ワタクシは、もっと元気な内の、自信満々時代の迫力も活力もある実玄祥先生を、偶然に観られていただけに、横浜能楽堂2017年7月の『土蜘蛛』、観能を初めてごく初期、33個千筋の糸を投げた、そういう体験をしているだけに、愕然とすると共に、名人の老いと病ということを深刻に捉えてしまう。

足腰が痛いから、舞は出来ないけど、独吟や地頭は十分出来ると思っていたのに、まだまだと思っていたのに。悲しみばかり。

というわけで、銕之丞先生のシテ舞は、ほとんど眼に入らず。脇正面だったこともあって、楼雪先生にばかり気が行ってしまって。

楼雪先生、今後の予定で、ワタクシが知っている限り、11月26日(土)の梅若学院『三輪』地頭、12月3日(土)の大槻能楽堂『土蜘』後シテ、12月10日(土)の川崎能楽堂『楠露』シテ、どうなるか。12月3日(土)は、ほとんど動かない小書きのシテになっているけど。12月10日(土)はシテ交替かなあ。

素晴らしい能力をお持ちのシテ方なんだから、言葉を選ばねばならないけど、見所を不安にさせてしまうのは、どうなんでしょうか。ちゃんと養生して、少なくとも不安なく拝見できるような状態にして、出演していただきたいなあ、と。

 

2度目の休憩後、能『融』。3回目。2回目は、2020年11月、梅若会で、その時も、小書きが「思立之出」だった。

これはワキ方の小書きで、ワキの下歌「思い立つ心ぞしるべ雲を分け」を、幕の内から謡い出して登場するのでした。だから「思立之出」という小書き名。

前場は、源融が創ったという六条河原院の謂われや、名所教え。東、北、西と向いて良く解る。

後場は、融の幽霊が登場して、往時を懐かしむかして、舞を披露して、舞楽の遊び。

この早舞で小書きの「十三段の舞」。たっぷり舞うのです。ホントにたっぷりと。その最後の辺りはアップテンポになって、極早舞。30分くらい続いたかしら。

シテの桂三さんは満足でしょう。あれだけ舞ったのに、その後のシテ謡で、声が乱れず。さすが、若いね。

その長~い早舞の最中、ずっと囃子方が大変だったと思う。取り分け大鼓は、絶対に手が痛くて、しばらく右手で何もつかめないよな、と思うほど。でも顔色一つ変えず、強打ちばかりで、ずっと。小鼓もそう。笛も大変。

前回は、この小書きはなかった。

見所としても、短い狂言とだけの組み合わせならばともかく、翁や、人間国宝らの舞囃子、独吟などもあって、疲労しているところに、この十三段の舞をじっくりとは鑑賞できる体力はない。

全体でも、4時間半を超える番組で、この小書き付きはどうなのでしょう。

 

ま、追悼の祈念公演だから。