6月30日(木) 国立能楽堂

一調 『曙』(金春流)

  シテ謡 金春安明 小鼓 大倉源次郎

脇仕舞『羅生門』 (下掛宝生流)

  ワキ(渡辺綱)宝生欣哉

舞囃子『東北』 (金剛流)

  シテ(和泉式部の霊)金剛永謹

  笛:一噌庸二 小鼓:観世新九郎 大鼓:柿原弘和 地頭:豊嶋彌左衞門

狂言 『呼声』(大蔵流 山本東次郎家)

  シテ(太郎冠者)山本東次郎 アド(主)山本則重 アド(次郎冠者)山本則俊

(休憩)

能 『土蜘蛛』・入違之伝・白頭・眷属出之伝・ササガニ (観世流 総出演)

  前シテ(怪僧)観世銕之丞 後シテ(土蜘蛛の精)梅若楼雪

  ツレ(源頼光)観世清和 トモ(従者)観世三郎太 トモ(胡蝶)観世淳夫

  後ツレ(土蜘蛛の精の眷属)観世清正・梅若紀彰

  アイ(蟹の精)山本泰太郎 山本則孝

  笛:杉市和 小鼓:幸正昭 大鼓:亀井広忠 太鼓:金春惣右衛門 地頭:大槻文藏

  面:後シテ「黒べし見」(徳若 作) ツレ胡蝶「孫次郎」 

    ツレ土蜘蛛の精の眷属 「泥顰」(満茂 作) 「小獅子」

 

本企画は、昨年3月13日、日本博皇居外苑特別公演2日目が、突然の雷雨のために中止になって、ちょっと変えたらしいけど、その代替公演。

だから、全体的に豪華出演者で、日本人の美を国内外に示すためのプロジェクトになっている、らしい。金春宗家、金剛宗家、小鼓大倉流宗家、その他。

 

一調『曙』は、金春流にしかない謡だそうで、なかなか理解が難しい。影響パネルに出る詞章と、実際の謡が異なっていた。だが、人間国宝大倉源次郎は、まあ上手に合わせて小鼓を打つ。まさか、即興じゃないでしょうけど。

 

脇仕舞『羅生門』は、能の『羅生門』中の、ワキの舞部分を取り上げたか。シテ方の仕舞であっても、ワキ方の仕舞であっても、あまり違いは無い。

 

舞囃子『東北』。金剛流の宗家。直面で観ると、歳を召されたなあ、と。

ここは、沈没しました。夢の中。小鼓が観世新九郎だったのでこれだけは、と思っていたけど、残念。

 

狂言『呼声』初めて。パッと目が覚める。

勝手に出仕しなかった太郎冠者を懲らしめようと、次郎冠者と家に向かう主。交替で呼びかけるが、そうと知って、隣人と称して居留守を使う太郎冠者。

何とかして呼び出そうと、平家節や、小唄節、踊り節をしながらの様々な工夫。同様の節で、同じように居留守。ここら辺りから皆々段々楽しくなる。

この平家節や、小唄節、踊り節が絶妙。最後は、踊り節に例の狂言拍子をつけて舞出す。太郎冠者も拍子をつけた舞で居留守。多分、通りに出てきてしまったのだろう、ばったりと出くわしてしまって、許すまいぞ。

楽しい、笑いが起こる狂言。次郎冠者の則俊さん、やはりお体の具合で、拍子舞の足が上がらない。太郎冠者の東次郎さんは、きっちりと舞える。

 

能『土蜘蛛』、5回目かな。超豪華出演陣で、観世流の名人の総出演に近い。

何しろ前シテが銕仙会の当主銕之丞、後シテが梅若会当主の梅若楼雪、ツレ頼光が観世宗家、ツレトモ従者が宗家の嫡子、ツレトモ胡蝶が銕之丞の長男。後ツレの眷属には、矢来観世の長男観世喜正、同じく、梅若会の重鎮梅若紀彰。

地頭が人間国宝大槻文藏。

観世御宗家が、仕舞ではなくして、役を持つのを観るのは珍しい。そのトモが、次世代の若者。

前シテ怪僧がツレ頼光を襲う場面で、蜘蛛の糸を4個投げた。「入違之伝」の小書きで、前シテ怪僧が退場するときに、橋掛かり上でワキ独武者と出会い、すれ違うが、ここで、蜘蛛の糸2個。

アイ狂言は、蟹の精の楽しいモノ。「ササガニ」の小書き。

後シテは、別役者になるのが、「白頭」小書き。というか、新しい演出。楼雪師が脚が悪いので、動けないための演出。常の古塚の作り物より横長の作り物が、幕が掛かって出てくる。中には3人。後シテが床几に座り、両脇にその眷属が座る。向かって右が紀彰先生。左が喜正先生。珍しい面を付けている。中心の後シテは、これも珍しい、面ではないような、被り物のような。

ここで、眷属が出てくるのが「眷属出之伝」という小書き。あらたな演出。

幕が引き下ろされて戦いが始まると、後シテは中の床几に座ったままで、蜘蛛の糸を盛んに繰り出す。2人の眷属は外に出てきて、戦う。更に沢山の蜘蛛の糸。途中まで数えていたが、無理。とにかく沢山。

眷属は討たれて、幕と切り戸口に退散。後シテはワキ独武者に討ち取られるが、ここでビックリ。後シテは腕を交差して顔を隠すようにすると、ワキ独武者が首を取ったかのように被り物を取り、左に抱える。首を討ち取ったりー、ということ。

もう一度幕が掛かって、後シテは中のままで退場。

要するに、楼雪先生が脚が悪いので、動かないで済むようにした工夫。戦えないもんね。でもこういう工夫は良いと思います。後シテの謡「汝知らずや我昔~」からは、良いお声だったし。お上手だったし、良かった。勿体ないよねえ。

 

こう言ってはいけないかもしれないけど、さほど難曲でもない能『土蜘蛛』を、観世の錚々たるメンバーが、寄って集って務める。勿論ここで手抜きはしない。

こういう特別メンバーでの『土蜘蛛』は、それこそ一期一会で、もう観られまい。日本博、と言うこと。

能としては、スペクタクル性が更に強調された感じで、如何なものかという感じもあるけど、まあよろしいのではないか。たまにはこういうお能も。