6月1日(水) 国立能楽堂

素囃子 『盤渉早舞』

  笛:寺田林太郎 小鼓:岡本はる奈 大鼓:大倉正之助 太鼓:澤田晃良

舞囃子 『邯鄲』・盤渉 (宝生流)

  シテ(蘆生)朝倉俊樹

  笛:藤田次郎 小鼓:古賀裕己 大鼓:高野彰 太鼓:林雄一郎

狂言 『三本の柱』 (大蔵流 山本東次郎家)

  シテ(果報者)山本東次郎 アド(太郎冠者)山本泰太郎 アド(次郎冠者)山本則孝

  アド(三郎冠者)山本則秀

  囃子方:前曲と同じ

(休憩)

能 『碇潜』・船出之習(観世流 梅若会・九皐会)

  シテ(老舟人化身 平知盛ノ霊)梅若紀彰 前ツレ(舟人化身)長山桂三・山中迓晶

  子方(安徳天皇)安藤継之助 後ツレ(二位尼ノ霊)角当直隆 後ツレ(大納言ノ霊)谷本健吾

  ワキ(旅僧)殿田謙吉 アイ(早鞆ノ浦人)山本則重

  笛:栗林祐輔 小鼓:観世新九郎 大鼓:亀井広忠 大鼓:金春惣右衛門 

  地頭:岡久広

  面:紹介無し。

 

東京能楽囃子科協議会、というのがあるのです。その定式能が、年度に4回あるようだ。

その今年度第一回が、紀彰師のシテでの『碇潜』が出るという情報を得、なにはともあれ、絶対に鑑賞すべしとて、正面席の良い席。

案外満席にはならないのは、囃子科協議会定式能という認識度の問題もあるか。良い番組なのだけど。

私の席の周りは、紀彰師にお稽古中の方が集まっていて、挨拶に忙しい。

あるいは、極一般の見所を予定はしていないか。囃子お稽古中の素人とその知り合いが相手か。それは、番組表の書き方にも見られる。能楽を見慣れた見所でないと、配役が読めないのです。

上記は、ワタクシの知識に基づいて配役を記したけど、番組表には一切の記載が無いのでした。

 

素囃子なるものは、前にも聴いたことがあるかもしれないけど、まったく記憶が無いのは、当時は関心対象外だったのでしょう。

今回は、小鼓方が、我がお稽古の先生なので、ずいぶん楽しみにしていたし、じっと見聞きさせて頂く。ふむふむ、ああいう風に打つのですね。我が先生となると、上手に聞こえる。

大鼓の大倉正之助さんは、小鼓の大倉源次郎先生の御兄上とか。

 

舞囃子『邯鄲』。これは、紀彩の会の仲間が舞った仕舞の舞囃子バージョンだから、どないになるのやろう、と興味を持って鑑賞。仕舞パートに移る前に、地謡や型が多い舞が入って、仕舞パート部分は、宝生流と観世梅若流とだいぶ異なるようだ。梅若に慣れてしまっているから、なんだかこそばゆい感じ。

でも、舞囃子でも、少し練習すれば出来るんじゃないか、と思った。ボクが舞う訳ではないけどね。

囃子方4人をお願いしなくちゃならないから、実際に舞台で舞うのは、お礼等大変だとは思うけど、実現不能の高みにあるとは思えない。

 

狂言『三本の柱』、数回目。2019年11月には東次郎家でも観ている。

なので、ストーリーとか良くわかっている。シテ果報者の東次郎さんが、常のように、途中から早足で入ってくる、泰太郎さんのハコビはホントに美しい。良い感じ。

東次郎さんは、膝が痛いだろうに、囃子に合わせて飛び跳ねたりして。大丈夫かなと心配になるけど、とにかく東次郎家のお狂言は安心して観ていられる。

どうしてこの曲を選択したかというと、やはり、囃子が入るからでしょうね。

囃子と言うこと、労働などを囃すと言うこと、なるほどと得心する。

 

能『碇潜』は、2019年12月に、梅若会で見たらしい。あまり参考資料がない曲だけど、梅若謡本を買って、読み込んで予習する。

しかし、番組表を見ると、ツレが沢山いるし、子方らしき名前もあって、謡本とは異なる。

不安は当たって、出だしから謡本と異なる詞章。

これは、「船出之習」という小書き付きで、更に、工夫をした本来の演出でなされたようだ。基本的には、観世謡本に従った上で。

前場では、前シテと共に、前ツレ2人が登場する。直面なので、役者がわかる。しつこいようだけど、番組表には記載が無いのです。

前場での、能登守教経の奮戦の様子は、梅若謡本では前シテの「語り」になっているけど、前ツレと別ける。紀彰師の良いお声をもっと聞きたかったような。義経の八艘飛びというのは、攻め込むのではなくして、教経の攻撃から逃げたのでした。

後場は、大がかりな御座船の作り物が登場。幕が掛かっている。幕の中からの声は、子方と後シテ知盛の紀彰師。ここで、ググッと。

幕が下ろされて、中には4人。中心には二位ノ尼と安徳天皇。右端には大納言局、左端に後シテ新中納言平知盛。子方以外は面を掛けているので、声で判断しました。紀彰師は間違えようがない。

二位ノ尼、安徳天皇、大納言局の3人入水シーンで、3人は退出。残った後シテ知盛紀彰師が、カケリで、勇壮に、激しい舞。続くキリの舞も。舞台上には大型の御座船作り物が残っているから、ちょっと位置を変えただけで、紀彰師がぶつかりはしないかと、そんな心配をしてしまう。ハラハラドキドキと感激と。

良かったあ。

壇ノ浦の合戦のハイライトシーンを、次々に表現する、そういう意味では解りやすい曲。

 

番組表の解説には、「次世代を担う梅若紀彰師のシテによる能『碇潜』」との記載があったけど、次世代を担うということなのか、当代一流ではないのか。確かに、80代にもなる人間国宝の大御所の方々から見れば、世代が違うのかもしれないが、もはや第一人者と言っても、社中の欲目ではないと思うけどなあ。

ワタクシも、社中の一人という前提で。単なる素人弟子からその程度には成長したんじゃないか、と能楽中毒の高等遊民です。