5月7日(土) 横浜能楽堂

狂言 『萩大名』(大藏流 山本東次郎家)

  シテ(大名)山本東次郎 アド(太郎冠者)山本凜太郎 アド(庭主)山本則重

(休憩)

能 『檜垣』・蘭拍子 (観世流 九皐会・梅若会)

  シテ(老女・檜垣女)大槻文蔵 ワキ(山僧)福王茂十郎 アイ(所の者)山本泰太郎

  笛:杉市和 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井忠雄 地頭:梅若実

  面:シテ「檜垣女」(氷見 作)

 

三老女企画の2回目。本日も豪華メンバーの出演。役者も緊張感があるし、見所もある程度の能経験者が多いようだ。

全体的に良い緊張感。

 

狂言『萩大名』、何回目だろうかって思うほど多数回の鑑賞なので、途中、庭を愛でて、太郎冠者に窘められる辺りは、寝てしまった。

東次郎さんがシテの会も複数回。狂言曲中では最高回数のはず。東次郎さんは、立派な演技なので、ちょっと抜けたシテ大名はあまり合わないのではないか。今回の3老女企画では、お能のシテ方の格もあるし、他の狂言シテの格もあって、人間国宝山本東次郎でないとバランスが悪い。

じゃあ、その中で、どういう曲を選択するか。時間の問題と、東次郎家の判断と。難しいね。

凜太郎君は、もはや、ホントに独り立ちした感。成長の期待感や、不安感はなくて、一人の狂言役者として観られる。

アド太郎冠者が、「萩の花かな」を振りつけで教える後で、なんの変化もなく、当然のように立ち去っていく。あの無表情の演出はなんなんだろうか。相変わらず謎で、ここら辺りに、『萩大名』の隠れた狙いがあるのだろう。

 

能『檜垣』、3回目。

シテが人間国宝大槻文蔵。どうしても感動した2020年3月の紀彰師シテの『檜垣』が目に浮かんでしまって、申し訳ない。あの感動よもう一度という訳だったけど、欲目もあって、チト違う。でも、とても良かったです。良かったですが・・、と言うこと。

地頭の人間国宝梅若実。

4月25日に、観世宗家から雪号を許されて、楼雪となったはずだが、パンフの表記は梅若実のままだった。訂正の張り紙もなく。梅若実楼雪が正解なのではないか。同時に老分ともなった、との発表だったけど、老分って何か。総合芸術監督みたいなものと解説されていたから、職分みたいに、観世流の中での特別資格なんでしょう。

まあその梅若実の地頭の素晴らしいこと。素敵なこと。あまり激しく謡う箇所はなくて、幽玄に、優美に謡うような謡で、心が揺さぶられる。足腰がお悪いのだから、地頭でご活躍して頂いて、間違いなく日本一なのだから、同席する他の中堅、若手の地謡方に、しっかと覚えさせるのが、役割なのでしょう。

前回の『檜垣』になかった今回の小書き「蘭拍子」。「乱拍子」ではなくて「蘭拍子」。乱れる「乱」ではなくて、お花の「蘭」。でも私には、有名なあの『道成寺』の乱拍子と同じように聞こえましたが。

小鼓方の人間国宝大倉源次郎先生が、ちょっと身体の向きを変えて、あの掛け声と鼓。それに合わせるシテ方人間国宝大槻文蔵先生の、あの独特の舞と足拍子。駆け引きというかやりとりというか。恐ろしいほどの緊張感と緊迫感。素晴らしい。ウルウル。

序ノ舞が、烏帽子を被って始まって、すぐに蘭拍子となり、引き続いて、ゆっくりとした優美な序ノ舞。その対比が抜群の効果をもたらして、感動を誘う。

それまでの、ちょっと退屈な気分が消し飛んで、ああ、今回の小書き付き『檜垣』の眼目はここにあったに違いないと。見逃しませんでしたよ。

素晴らしい。

ストーリーは、かつての若かりし頃、九州太宰府の有名美女白拍子。権勢を誇ったのでしょうか。奢ったのでしょうか。年取って、白川のほとりの檜垣で囲まれた庵に住んで、自ら水を汲むような生活。かつての奢りの執心がまだ解けていない。そんな中で舞う、序ノ舞、蘭拍子。昔の面影と、老いた現実。

成仏は出来たのだろうか。寂しげに去って行く老女。この最後の橋掛かりが良いのです。誰も拍手しなかった、良かった。

 

3回目は、銕之丞先生の『関寺小町』、お披きかな。実に実に楽しみ。