5月3日(火・祝) 川崎市麻生市民館大ホール

解説 馬場あき子

能 『隅田川』 (喜多流)

  シテ(梅若丸の母)友枝昭世 子方(梅若丸の霊)山本則光

  ワキ(渡守)宝生欣哉 ワキツレ(旅人)野口能弘

  笛:栗林祐輔 小鼓:森澤勇司 大鼓:國川純 地頭:香川靖嗣

  面:紹介なかったけど、深井か、増女

(休憩)

狂言 『麻生』 (大藏流 山本東次郎家)

  シテ(麻生の何某)山本東次郎 アド(藤六)山本則重 アド(下六)山本則秀

  アド(烏帽子屋)山本則俊

  笛:栗林祐輔 小鼓:森澤勇司 大鼓:佃良太郎 太鼓:深田晃良

アフタートーク 馬場あき子 友枝昭世 山本東次郎

 

昨年の5月3日にも同じ企画拝見。2人の人間国宝、友枝昭世さんと山本東次郎さんに、あの馬場あき子さんの解説とアフタートークがある。

去年は『萩大名』と『清経』。解説の馬場あき子さんに痛く感動した。去年のブログが感動を物語る。

今年も、人間国宝の能楽もさりながら、なんと言っても馬場あき子さんの解説などに魅力を感じて、ホール能楽なれども参加。

 

開場少し前に会場外で休んでいると、目の前を馬場あき子さんが歩いて来て、様々な方とご挨拶など。颯爽としているし、素敵なお召し物で、これだけでムードは盛り上がる。

 

馬場あき子さんの解説が始まると、また、立ったまま30分とちょっと、ちょこっとメモを見るだけで。

『隅田川』と『麻生』の解説をするのだけど、まあ良く詞章や出てくる和歌を覚えていらっしゃる。ホントに能楽が好きで、好きで、だから勉強して、沢山観て、ご自分でもお稽古などして、その上での解説だから、能評論家の辛口などではなく、愛情と好意が溢れる解説。

良いなあ。これから始まる能狂言に期待が高まる。これだけで、お金を払っても惜しくはないくらい。

 

能『隅田川』。3回目。直近は2020年7月に国立能楽堂で観世流。だけど、友枝昭世シテのDVDを持っていて、何度も観ているし、檜書店の対訳本も何度も読んでいるから、すでに、ストーリーどころか、ある程度の詞章も頭に入っている。

残念だったのは、ホール能で、客席も遠くにもあって、お年を召した友枝昭世さんの、面を通した声がチト聞きにくい。ワキ方は直面なので、良くわかる。取り分けて野口さんの声は良く通るから、ホールでも大丈夫、十分に聞こえる。

渡しの船中のワキ方の語り。その途中から、対岸の塚の中に埋められているのが息子と気が付いてくる辺り、シテのちょっとした動きが感動的。ほんのちょっとした動きだけなのね。

この辺りだったかなあ、作り物の塚山の中に、子方と思われる子が、切り戸口から隠されるように入っていく。

塚自体は最初から舞台上にあって、その中に既に子方が入っているものと思っていたのだけど、後から入ったのでした。そういえば、出すときに嫌にスムーズに運んでいた。

 

今回の子方は、シテ方の関係者ではなく、狂言方山本東次郎家、山本則俊さんの孫、則光ちゃん。配役でこれを知ったときに、狂言方の子でも、能の子方に出るんだ、と興味を持っていた。この前、『靭猿』の小猿で観たよね。

念仏を唱えていると、ふと、子どもの声が重なってくる。この可愛さというか、幽霊らしさというか、適役だったのではないか。

更に、塚から姿を現して、シテ母と抱き合えずにすれ違う、そして塚の中に消えていく。もう一度出てくるけど、また触れられずに塚の中へ。名場面ですね。ウルウルと。

詞章では12歳だけど、現代的には12歳では大きすぎる。則光ちゃん、5~6歳かな。良い感じ。あの年齢じゃあ、最初から塚の中にいるのは無理。この演出で違和感なし。

最後、一人で橋掛かりを寂しそうに下がっていく。ゆっくりしたハコビ。客も誰も拍手せず、同一の心持ち。良いねえ、こういう終わり方。

 

シテの人間国宝友枝さん、今回は舞は無かったけど、動きが繊細で、スムーズで素晴らしい。ゆっくりと身体の向きを変えたり、座ったり、立ち上がったり、腕を動かしたり、顔の向き上下をちょっとだけ変えるにしてもホントに大変です。今お稽古中の『井筒』も、ゆっくり、ゆっくりで、筋肉疲労がすごいから。お稽古しているからこそわかるんです。名人芸を実感します。ゆっくりで、少しの身体のブレもない。

小鼓もお稽古しているから、小鼓にも注目。森澤さん、調べたら幸清流だって。幸流の分家だって。

段々、注目ポイントが増えてくる。忙しいのです。

 

休憩後、狂言『麻生』。いつもと順が違う。おめでたい祝言曲だからか。記録上は2回目で、前回も東次郎さんのシテ、2020年1月家伝十二番で。

やはり、烏帽子髪を舞台上で結うのが大変らしい。これは常の型にはないから。後で聞くと、東次郎家でも則重さんしか出来ないらしい。

東次郎先生、ホールの台の上で、能楽堂舞台とは違って、板の隙間はあるし、滑りが悪いし、御御足が悪いのに、長袴を履いて、座ったり立ったり、ぴょんぴょんと跳ねて踊ったり。ちっとも、膝が痛いそぶりを見せず。知っているこっちは、大丈夫かしら、痛いよなあ、等とハラハラドキドキ。

則俊さんが、少しだけ、烏帽子屋で登場。観た感じ大丈夫だった。お久しぶりって。孫が『隅田川』の子方で出るから、頑張ったのかしら。

 

アフタートークも、面白いし、勉強になる。今出演したばかりの人間国宝が、今の演技や演出についても語るから、ホーっと思うことばかり。出演者は大変だろうけど、こういう機会は滅多にないから、良い。馬場あき子さんの突っ込みも的を得る。

 

また来年。

馬場あき子さんは『殺生石』をお願いしていたけど、どうなるか。

このお三方のどなたかが欠けても、この素晴らしい企画は実現できない。皆様、ご高齢だから。

 

こういうお能を観てしまうと、やはり、能楽は素晴らしいと。高等遊民、能楽中毒は不変です。