4月9日(土) 横浜能楽堂
狂言 『財宝』 (和泉流 野村万作の会)
シテ(祖父)野村万作 アド(孫)中村修一、内藤連、飯田豪
笛:槻宅聡 小鼓:大倉伶士郎 大鼓:柿原孝則 太鼓:梶谷英樹
面:シテ「祖父」(作不明)
(休憩)
能 『姨捨』 (観世流 梅若会・九皐会)
シテ(里女 老女(更科女)の霊)梅若紀彰 ワキ(都人)福王和幸 アイ(所の者)野村萬斎
笛:松田弘之 小鼓:大倉源次郎 大鼓:國川純 太鼓:前川裕之
面:前シテ「深井」(河内作) 後シテ「姥」(作不明)
横浜能楽堂の、素晴らしき企画の公演。最奥の曲とされる三老女(『姨捨』、『檜垣』、『関寺小町』)を、3ヶ月にわたって上演し、しかもそのシテが観世流の名人ばかり。勿論、セット券で購入している。
今回はその初回で、当初発表はシテが梅若実だった。ところが、ご存じの通りの体調により、我が師匠梅若紀彰に変更が当日に発表になった。
かなり前から、実先生は出来ないよねえ、でも工夫してやるのかなあ、どうするのかなあ、交替するならば紀彰師しかいないよねえ、などと思いを巡らせていたところ、当日発表。どうやら最終的にきめたのは2日前だそう。
実先生が地頭に廻り、地頭予定だった観世喜正さんが副地頭。おお、地謡が重厚な布陣になった。
この地謡で、紀彰師の舞う『姨捨』。それだけで、緊張が走る。
狂言『財宝』。こういう企画能ではどのような狂言を出すか。
第1回は、人間国宝野村万作。第2回は同じく人間国宝山本東次郎、第3回も人間国宝野村萬。
バランスってのがあるからね。
『財宝』。さいほうって読む。シテ祖父の名前。記録上2回目で、初回は2020年1月に山本東次郎で。
まあとにかくおめでたいという曲で、祖父に名付け親になって貰う孫3人。つけた名前は「嬌あり」、「冥加あり」、「面白う」。シテ爺は孫3人にプレゼントもする。祝言で、謡って、舞って、最後は孫が作る手車にホントに跨がって、退場。
この万作も、至芸。
30分以上の曲で、腰を曲げた姿勢を通す。声は出る。「祖父」面も似合って、お爺さんうれしそう。
囃子方は、後の能『姨捨』に出演する先生方の、一番弟子達。源次郎先生のご子息の伶士郎さん、モテるだろうなあ。
能『姨捨』、2回目。初回は2019年10月、浅見真州。横浜能楽堂の蝋燭能。まだまだお能の鑑賞歴が少ない頃。
実先生ら、後列4人は貴人口から登場。横浜能楽堂の貴人口が開くのは初めて見た。何ヶ月か前には、中野の梅若能楽学院会館で、実先生が貴人口から出てきて以来。
曲の内容を書くと、簡単だけど、感動は伝わらないでしょう。
特に、後シテの後場、月光に照らされる白い装束に、愁いも含んだ面「姥」を掛けた紀彰師が、実に、ゆったりと、淀みなく、優雅に、流れるように舞い続ける。何分続いたろうか、クセ舞から、序ノ舞、最後まで、半分以上は腰をかがめた姿勢のまま。途中、桶に腰掛けることはない。2度ほど安座したかな。それ以外は、立ちっぱなし、舞の連続。
大きな強い舞ではなくして、緩やかな、ゆったりとした舞なので、難しいんですよね。疲労も半端じゃないはず。安座から立ち上がるときも、揺れないんですよ。どういう身体能力しているのか。
最後、ワキ都人達も去って行き、一人残された後シテ。観念したように、俯きながら、ホントにゆっくりゆっくりと橋掛かりを下がっていく。ゆっくりだけど、ブレないんです。ここに至って、ワタクシは遂にウルッときてしまう。
すごい曲だ、すごいシテ方だ。名演だ。感動した。
地謡も良かった。実先生のお声は素晴らしい。副地頭になったけど、抑え気味でも、しっかり謡う観世喜正さん。良い詩ですね。梅若の謡本を持っていったこともあって、良くわかりました。この、強力地謡に負けないシテの舞。
囃子方も、力が入っていたような。滅多に打たない、引かない囃子だよね。
出演者皆さんの気が集中していて、すばらしい。見所も、ほぼ集中していました。
アイ狂言で、普通のアイ語りをする萬斎は初めて見た。さすがに、です。でも、ちっと眠くなってしまった。実先生も寝ていたし。
梅若会の若手というか、中堅の方々、しっかりと観ていましたよね。
見所には、馬場あき子さんも見えていた。
こういうお能を、NHKが録画しないとねえ。
まさしく一期一会。こんな会に遭遇してしまうと、高等遊民、能楽中毒者、観能も止められないし、謡、仕舞、小鼓のお稽古も止められない。