1月29日(土) 横浜能楽堂
仕舞 『源太夫』 金春憲和
『花筐』クルイ 金春安明
狂言 『御田』 (大藏流 山音東次郎家)
シテ(神職)山本東次郎 アド(早乙女)山本泰太郎 立衆(早乙女)凜太郎、他5名
笛:一噌隆之 小鼓:岡本はる菜 大鼓:佃良太郎 太鼓:小寺真佐人
(休憩)
能 『関寺小町』・古式 (金春流 宗家)
シテ(小野小町)本田光洋 子方(関寺の稚児)中村千紘 ワキ(関寺の僧)森常好
笛:一噌庸二 大鼓:國川純 太鼓:観世新九郎 地頭:辻井八郎
面:紹介無し
金春流の宗家でも、一子相伝で公演が難しいのに、今回は、弟子家では初めてという上演、古式の小書き付き。
開場早々から、金春の方々が沢山お見えで、あちこちでご挨拶。満席で、後方には補助席まで出す盛況ぶり。
2月27日(日)に、NHKでの放送があるらしく、大型のカメラもある。
開始から、今日はすごいぞの雰囲気満載。
緊張の中での開演。
まず仕舞『源太夫』。金春だけにある曲らしい。まったく馴染みがない。シテは金春流八十一世宗家。1982年生まれの40歳か。2017年に宗家を継承。
次いで、その金春八〇世宗家金春安明が『花筐』。1952年生まれ。まだ70歳だけど、5年前に隠居。勿論、能は現役。
元々のプログラムでは、同曲は櫻間金記が舞う予定だったが、急遽前宗家金春安明に変更。地謡も全員交替。何があったのかしら。宗家と櫻間会。
狂言『御田』。独立した狂言としては初めて。東次郎著の「狂言のことだま」中に記載ある。能『賀茂』の替間で、カエアイとしては2019年5月に国立能楽堂の宝生流『加茂』で、観ている。その時の神職は山本則秀。
のどかな早春、神職と早乙女で行われる田植えの儀式。おめでたいのです。『関寺小町』のような重い能に合わせて、おめでたい曲を選んだと、東次郎さんの解説にあった。
シテ神職の謡・語りと飛び回るような舞が大変そう。ややお声が擦れていて、聞き取りづらかったこともあって、詞章は良く解らないまま、ちとウトウトしたけど、ま、あのご高齢で、良くあのシテが務められるなあ、と。『関寺小町』へのご祝儀なのでしょうね。
『関寺小町』、勿論初見。三老女でもあまりに秘曲なのかしら、なかなか資料が見つからない。能楽大全で、詞章は予習。ふと「近江の能」(井上由理子著)という本を見たら、現地の写真付きでの紹介が掲載されていて、視覚で解るから興味が深くなる。
関寺、という大きな寺が逢坂の関近くにあって、そこに、落剥した晩年の小野小町が住んでいたというのは、定説近いのかもしれない。
あんなに美女で有名で、男にももてて、深草の少将に百夜通いなどさせたり、しかも、和歌の上手名人。その老後の生活は、必ずしも優雅なモノではなくして、みすぼらしいモノだったようだ。しかし、和歌や仏教の教養だけは抜群であったのだろう。『卒塔婆小町』などの小町モノ。
そうした中での、最奥曲という『関寺小町』。小町モノと、老女モノの、最高バージョンか。
前半は、和歌を習いたいという子方関寺の稚児に、教えるシーンなど。その中で、関寺の中の藁屋に住む老女が、実は小野小町のなれの果て。
この部分は、藁屋の中に座わりっぱなしのシテと、外にいるワキ僧との語り合いばかり。動きが少ない。詞章が配られていたから良いが、そうでないと、理解できず、眠くなる。ただ、詞章と、特に地謡は素晴らしい節付けで、、ウットリ。
後半、まず子方稚児が、若者らしい、ハキハキした舞。中村千紘君。金春流シテ方中村昌弘のお子さんらしい。子方の卒業とか。透き通ったような良い声でした。舞も、若者らしい舞。これで、次ぐべき老女の舞との比較になる。
若者の舞に引きづられて、シテ小町の舞。中ノ舞とあるが、良く解らない。しかし、背中の形、足の踏み出し方、拍の踏み方、両手の動き、摺り足の動き方、すべてが、ああ、100歳の老女だと思わせる。
それが、10分か、もっと20分か続く。素晴らしい。さすが、最奥曲の舞。他に比較できないから、上手がどうか客観的には解らないが、良かったと思うし、感動もした。生意気だけど、ワタクシなど絶対にどんなに練習してもできないなあ、等と変な感想。
老女なのに、舞ってしまって、それが恥ずかしいのか、夜が明けて藁屋に帰る。杖にすがって、ヨロヨロと。
子方、ワキ、ワキヅレと下がっていって、最後に残ったシテが、本当に静かに、静かに橋掛かりを下がっていく。あれは辛いだろうなあ。老婆だから背中が丸くなっていなくちゃならない。背筋は伸ばした方が楽でしょう。それをあの姿勢のまま、舞を舞った後、橋掛かりを帰って行く。お幕も、ゆっくり上がって。余韻。余韻。最高。素晴らしい。
さすがに三老女の『関寺小町』。6月にまた銕之丞先生の『関寺小町』を観られる予定なのです。横浜能楽堂の三老女企画。楽しみです。