1月26日(水) 国立能楽堂

仕舞 『雲林院』・クセ 梅若万三郎

狂言 『二千石』 (大藏流 茂山家)

  シテ(主)茂山七五三 アド(太郎冠者)茂山宗彦

(休憩)

能 『求塚』 (観世流 銕仙会)

  シテ(菜摘女 禹名日処女の霊)大槻文藏 ツレ(菜摘女)坂口貴信、大槻裕一

  ワキ(旅僧)森常好 アイ(所の者)茂山逸平

  笛:松田弘之 小鼓:観世新九郎 大鼓:亀井忠雄 太鼓:前川良平 地頭:観世銕之丞

  面:前シテ・浅黄女 後シテ・痩女 ツレ(二人とも)小面

 

実は、今回の楽しみは仕舞『雲林院』クセでもあった。何しろ、習った仕舞で、昨年10月の発表会で舞った曲だから。同じ観世流でもあるし。

しかし、舞の梅若万三郎は、お年を召したか。あるいは、ちょっと身体の具合が悪くなったかも。そういえば、最近、体調不良で代演になったこともあったなあ、と。

切り戸口からの登場から、苦しそう。下に居で始めず立ったまま始めたのは、高齢者にはよくあること。しかし、その後の舞も、手が上がらないし、サシコミも覚束ない。ヒラキも小さい。左右も・・。とにかく全体的によぼよぼした印象(失礼)。

野村四郎幻雪師の最後は、下に居から始めなかったけど、動きはやや緩慢だけど、なんというか、気迫、気力はあった。それに感動したのだけど。

今回は、何だか、寂しくなってしまって、見所が落ち込む感じで、泣きたくなってくる。

またしても、名人と老いについて、身につまされて考えさせられる。どうしたら良いんだろう。

 

狂言『二千石』は記録上3回目。じせんせき、です。にせんごく、ではない。2021年10月は善竹家、2019年11月は同じ茂山家で。

シテ主に無断で出かけたアド太郎冠者を、成敗せんと、主が、左手に太刀を持って構えて、太郎冠者の自宅を訪ねて、しさりおろう、と叱る。京内詣りをしたと聞くと、様子を聞きたいからと、許す。流行っている謡を謡えと。

そこで太郎冠者が謡ったのが「二千石の松にこそ、千年を祝う後までも、その名は朽ちせざりけり」。プログラムで解った。

ところがこの謡は、主が代々禁止している謡だったので、成敗せんと太刀を構えるが、アド太郎冠者はそのシテ主の姿が先代に似ているといって泣き出す。つられて主も泣き出す。

代々似ているということは、大変に目出度いことでは無いか、と、一緒に笑う。そのまま目出度しと両名引き下がるのだが、最後に、アド太郎冠者が、しめしめ、という顔つきでにやっとする。こんな顔つきあったかな。

新しい発見がある。茂山宗彦の演技か。

 

能『求塚』、初めてだけど、研究の成果か、初めての気がしない。

悲惨なストーリー。2人の男から求婚されて困っていたシテ。その2人の男は登場しない。決着をつけようと、2人は鴛鴦を弓で射る。それが同時にあたってしまって、鴛鴦は死んでしまう。これは自分のせいだと思ってしまって、入水して自害する。塚に収められるが、その2人の男までが塚の前で後を追って差し違えてしまい、自害する。

つまり、2人の男と鴛鴦の死を招いてしまって、禹名日処女(うないのおとめ)は、我が科からだと地獄の責めを負い、成仏できない。旅僧に頼むが、やはり成仏できないままに終わる。

作り物の塚が大小前に置かれる。3人の菜摘女が橋掛かりから登場。最後にちょっと離れて立つのが前シテ。西国のワキ旅僧が京に上る途中で、生田に来て、求塚を知らないか、と。2人のツレ菜摘女は、キツい言い方で拒絶する。

ツレが去った後、前シテが残って、ワキ旅僧に求塚の謂われを語り始める。途中、「その時わらは思うよう」との語りからムードが変わって、鴛鴦や2人の男子を死なせてしまったことも、我が身の科として、作り物の塚の中に入ってしまう。この語りも素晴らしい。

アイの語りの後、ワキ旅僧が祈っていると、塚の中から後シテ幽霊が、苦しんでいる、ここは火宅だと嘆きの語り。

幕が引き下ろされても、塚の中で、床几に座ったまま、2人の男子に引っ張られて水火の責めを受けたり、鴛鴦に脳髄を食らわれる様を語る。ここも、悲惨な語りと仕方で、そのムードをたっぷり示す。火宅の柱、と柱に取り付いても火炎となる。安住の地が無いのだ。最後まで、安住できない。

後シテは、塚から出て、橋掛かりに進んで、一の松で下に居、マクラの扇のような型で、終了。珍しい終わり方。そこから立ち上がって、本当にゆっくりと橋掛かりを下がっていく。その恐ろしいばかりの余韻。誰も拍手しないのは良かった。

舞は無くて、男や鴛鴦に苛まされる様の仕方が、恐ろしくリアルで、胸に迫る。

 

さすがの人間国宝大槻文藏。

地頭の観世銕之丞。しっかりした謡で、舞台を引き締める。さすが。

大鼓も人間国宝亀井忠雄。他の囃子方も、迫力あった。

素晴らしく、緊張感に溢れ、ピシッとしたお能を見せて頂いた。

感激です。