11月12日(金) 八王子J:COMホール

開口一番 春風亭一休 『転失気』

春風亭一之輔 『妾馬』

(仲入)

柳亭小痴楽 『崇徳院』

柳亭市馬 『味噌蔵』

 

八王子の元の市民会館。南口再開発に伴って、高層マンションの低層部分に、市役所やホールが入り、レストランもいくつか。

もの凄いことになってしまった。昔の八王子南口は、それこそ寂しくて、飲み過ぎて横浜線が終電になってしまった後、南口駅前でタクシーを並ぶ位しかなかった。北口は、もっと前に再開発されていたが、放射道路商店街などはそのままなのに、南口は別世界になってしまった。前の八王子市長は、こういう開発が大好きだったからね。

 

市民会館が確かに老朽化していたから、この再開発ビルに入って、大規模ホールにしたかったのでしょう。

気持ちはわかるけど、図書館はないし、文化芸術の理解があるという訳ではなくして、単に土木や大規模開発が好きで、儲けたい市長だったのです。八王子みなみ野というアホなような命名の開発をしたりして、自然破壊の王者でした。

 

ここでの落語会。去年は、一部と二部に分かれて販売したが中止になって、今回はそのリベンジ。どういう訳か、1階の前部分席だけに、市松にはせずに客を入れ、1階後ろ半分や、2階、3階には客を入れないという、何だか、ぐっと詰まった感じで、ただ舞台から観ると多分前だけに詰まっている感じの席配分。

一之輔はこれをマクラに使って、ぎゅっと詰めた弁当箱をぐるぐる振り回して、それでぎゅっと片方に寄ってしまったみたい、と喋っていた。なるほど、こういう機転が利くのね。

 

開口一番、前座の一休は、前にも見たことがあるけど、自分の番が終わると、めくりの前に座って、客席をじろりと睨み付ける。多分、客席が落ち着くのを見ているのだろうけど、怖いのです。

ただでさえ、下手くそな話を聞かされて我慢しているところに、睨み付けられるのは如何か。一之輔の弟子で、一之輔の指導なのだろうか。開口一番の役割は、座を温めるというか、客をその気分にさせることだと思うのだけど、客の方も温かく見守ってやりたいとは思うけど、睨み付けられては、ね。

で『てんしき』、つまらないね、下手。

 

続いては一之輔。もう出番か、と思いつつ、マクラで笑いを取って、『妾馬』。お得意の長屋話に、大名話を付け加えた、お笑いと人情。人情の点では、やや、ん、だけど、まあ人情噺としてはかけていないのでしょう。まあもう少しね。でも面白いよ。段々、人情噺にも、ね。

 

仲入後は、小痴楽。そうでした。この会は、会場が近いだけではなくして、小痴楽がお目当てなのでした。

小痴楽は、落語ディーパーで気に入って、真打ち昇進して、よし聞きに行こうと思っていたところが、何回かトライしてもコロナで中止が相次ぎ、今まで聞けなかったのです。

眼鏡は外して高座へ。小室氏と真子様の話をマクラに、恋煩いから『崇徳院』という古典落語の本道へ。さて、と思ったけど、良かったですよ。あまりくすぐりはなくして、まっすぐなおしゃべりで、滑舌も、間も悪くない。綴り方教室の痴楽の子。ちゃんとした噺家になるのではないでしょうか。2世噺家は、良くなるか、全然ダメか。

座布団一枚。って、笑点メンバーより面白く、上手かも。

 

トリは、落語協会会長柳亭市馬。彼に言わせると、前の二人は、若手の成長株。そうか、そうなんだね。市馬は、会長だし、大御所なんだね。小痴楽は、芸術協会なのに、呼んで貰えて。とすると、こういう順序での高座は当然か。

かけたのは『味噌蔵』。これも古典落語の大道。さすがの貫禄で、タダ笑わすだけではなくして、落語の本道を示す感じ。流れるように、キチンと。

にぎわい座で何回か市馬の独演会を聞いているけど、その時より良い感じ。自分の、下手な弟子の話しの後より、有望株の若手の後で、やりやすいんじゃなかろうか。確かに、こんな組み合わせ、東京のホール落語でも実現できないだろう。こういうのが、地方落語会の良いところか。八王子は、そう遠くもなく、都心でもなく、有力噺家をまとめて呼べる地かもしれない。

勿論、客はそうまで巧者ではないけど、良いんじゃないのかな。

 

今回は、演題の掲示も無く、だけど、話を聞いて、さてなんだっけ、と考える楽しさと、我が記憶力の衰えに愕然とするけど、まあ、わかりました。実は『妾馬』だけ思い出さなかったけど、最後に一之輔が「妾馬というおめでたい話しでした。」と喋ってくれて、良かった。客の力量というか、経験というかにすぐ合わせる能力も、噺家の力だと思う。その場その場でね。

 

開口一番で落ち込んでしまったけど、最終的には、古典落語の王道を行く三席で、楽しかった。新作も上作で上手ならば良いけど、やはり古典落語だよ。