10月6日(水) 国立能楽堂
狂言 『蟹山伏』 (大蔵流 山本東次郎家)
シテ(山伏)山本則俊 アド(強力)若松隆 アド(蟹の精)山本凜太郎
(休憩)
能 『仏原』 (観世流 銕仙会)
シテ(里の女 仏御前)片山九郎右衛門 ワキ(旅僧)福王知登 アイ(里人)山本泰太郎
笛:竹市学 小鼓:幸正昭 大鼓:亀井広忠 地頭:浅井文義
面:増女
狂言『蟹山伏』は4回目。直近は、20年6月の狂言堂YouTube配信。その時と、配役は変わらない。
ということで、ストーリーも面白さもよく知っていて、半分以上寝てしまっていた。
シテ山伏は、先日出かけた羽黒山の山伏で、修行のために、大峰・葛城山に来ていて、帰国途中のこと。修行が熊野ではなくして、葛城山。この辺りは、台詞だけだけど、羽黒山に詣でた身としては、楽しい。
後は、済みません、気持ちよくなって、疲れも残っていて、寝てしまいました。最後は、あの蟹を捕まえてくれ、やるまいぞ、やるまいぞ。
能『仏原』は初めて。
物語は、平家物語を典拠としている。清盛が寵愛した祇王という白拍子。妹が祇女。天下の清盛が愛でた白拍子で目出度く過ごしていたが、清盛が仏という白拍子に心変わりをしたので、追い出されてしまい、嵯峨野に隠れ住む。そこに、仏御前が尼の姿で現れて、自分の為に不幸になった祇王・祇女姉妹に詫びる。その姿を見て、祇王・祇女も心豊かになる。平家物語の巻一くらいの最初に出てくる物語で、平家物語絵巻が目に浮かんでくる。
その前半を能にしたのが『祇王』らしく、後半を能にしたのが本曲『仏原』らしい。
仏原というのは、加賀国にある原で、平家物語の嵯峨野とは違う。仏御前が死んだ場所という設定。ここまでは、平家物語にも書かれていない。
前場は、ワキ旅僧が仏原に至ると、前シテ里の女が出てきて、仏御前のことを語って、祇王のことも語って、弔って欲しいと告げる。舞はまったくなく、クセも語りだけ。前シテは、下に居の姿勢のまま、若干左右に向くだけで、そのまま、じっと動かない。この動かないのが難しいし、美しい。能らしい。
後場の、後シテが美しい姿で登場。薄ピンクと見えた装束、金色風の烏帽子。この装束だけで、もはや、幽玄の世界。
その舞は、序ノ舞で、ゆっくりと、優雅に、優美に。美しい。片山九郎右衛門、素晴らしい。人間国宝ではなかったんだね。でも素晴らしい。京都観世流の最高峰。
静かに、優雅に橋掛かりを下がっていく。見所も京都から来た人が多いのか、声も立てずに、見送る。
こういう終わり方は、最近あまりない。囃子方が大半下がるところでやっと拍手。十二分に余韻。
この曲は、あまり資料が公開されていない。能楽手帳にも載っていない。が、能らしい能というか、玄人好みの能かもしれない。大きな動きはないし、出演者も、シテとワキだけ。派手さはないが、しっとりとした優雅。
素晴らしい。