9月8日(木) 国立能楽堂

狂言 『因幡堂』 (和泉流 野村万蔵家)

  シテ(夫)野村万禄 アド(妻)河野佑紀

(休憩)

能 『藤戸』 (喜多流)

  シテ(漁師の母 漁師の霊)友枝昭世 ワキ(佐々木盛綱)森常好 アイ(盛綱の下人)野村万蔵

  笛:松田弘之 小鼓:成田達志 大鼓:國川純 太鼓:小寺佐七 地頭:香川靖嗣

  面:前シテ・曲見 後シテ・痩男

 

8月7日に予約した9月分公演のチケットと、前日の9月7日に予約した9月分公演のチケット、合わせて7公演分のチケットを受け取る。大した量だ。

 

狂言『因幡堂』は、記録上2回目。前回は2019年11月かもんやま能で、茂山七五三シテ。

あまりに大酒飲みなワワシイ妻を里帰り中に離縁状一つで離縁し、因幡堂で「申し妻」をしようとしているシテ男。その目論見を察知したアド妻が、怒って、籠もって寝ているシテ夫に、西門に、申し妻がいると吹き込み、自ら被きモノを被って待つ。それを信じたシテ夫。西門に行って、かための酒をというと、まあ飲むは飲むは。被きモノを取ると、元の妻だった。慌てて逃げるシテ夫、腹立ちやと追いかけるアド妻。

神仏に祈祷して貰う妻、清水寺のこともあるが、いつも西門なのは、何故だろう。こういうのを「申し妻」というらしい。で、「申し子」は、同じく神仏に祈祷して授かった子、というらしい。勉強になる。

野村万蔵家であって、しっかりした演技ではあるが、眠くなってしまった。

 

翁『藤戸』は、2度目で、初回は2020年2月の式能2部、宝生流であったが、何の予習もせずに観て、ひどく感動した。その感動の様はブログに。で、今回は期待して、人間国宝友枝昭世のシテであるから、一杯期待して鑑賞。予習もバッチリ。

期待に違わず、素晴らしいお能でありました。

ワキ佐々木盛綱が、児島の合戦で、海を渡る浅瀬を所の漁師に教えて貰って、大勲を遂げ、褒美に児島を賜るのだが、秘密漏洩を心配して、戦いの前に、その漁師を刺し殺してしまう。児島に凱旋した後に、それが発覚し、漁師の母に詰め寄られて、あわやという事態。隠しきれずに殺害の顛末を自白し、管弦講を催して弔う。そこに現れた後シテ漁師の霊が、刺し殺される様を見せて、悪龍の水神となって怨みをなさんとするが、弔いにあって、彼岸に到達できて、成仏する。

 

詞章を見ながら鑑賞していると、前場で、秘密保持のために殺される辺り、森友問題で自害した財務省の役人を思い出す。知らぬ存ぜぬを決め込む、安倍総理の姿を思い出す。みっともない。本曲でも、秘密裏に口封じをしたのだ。

それを聞き及んだ前シテ漁師の母、ワキ盛綱に問いただすが、最初は、知らぬと。が、怒りが収まらずに、詰め寄ると、ここはワキ盛綱いさぎがよろしい、何をか隠すべき、と殺害の様子を、正直に語る。

この辺が、安倍前総理や、それを隠したままに押し通す管現総理とは違う。部下が一人自殺までしているのに、白を切り通す。あるいは、財務省上層部の勝手にやったことと責任転嫁。言い逃れ。みっともない。

総裁選で、最初、再調査を匂わせた岸田氏に対して、圧力をかける。なんて奴だ。安倍、麻生、二階政治を打倒しなければならないが。

序でにいうと、岸田氏は、小泉以来の新自由主義を見直すとまで公約した。なかなか、やるでないの。これも、後退しちゃうのかな。

 

能に話を戻すと、この能は、舞が無いのです。前場もずっと前シテとワキの語り。仲入後の後場も、後シテ漁師の幽霊はシテ柱のシテ座、ワキ盛綱は、ワキ柱のワキ座。ずっと。動かずに。

最後に、刺し殺された様子を演ずるのも、舞ではなくて、仕方。太刀で切られるのではなくして、二サシ、刺し殺される。前場の、ワキ盛綱に詰め寄るシーンと並んで、わずかな仕方動きだけど、鬼気迫る感じが良く出ていた。

ワキ方にとっても重い曲。前場の、長い、ワキの語り。森常好さん、良い声で、よく声が出て、素晴らしい。ワキ方も極めて重要なのです。

最後、後シテが止め拍子を踏んで、囃子方も、ピタッと終わって、緊張のママに、シテ、ワキとゆっくりと退場。ここでは誰も拍手しない。良い感じ。

物語も良いし、シテ方、ワキ方も良かったし。偶々だけど、現状の政治状況とも重なって、印象に残るお能になりました。