8月29日(日) めぐろパーシモンホール
演目の解説 金子直樹
仕舞 『巴』 井上燎治
『井筒』 松山隆雄
『融』 角当直隆
地頭:山崎正道
狂言 『鍋八撥』 (和泉流 野村万作の会)
シテ(浅鍋売)野村万作 アド(羯鼓売)野村裕基 アド(目代)野村萬斎
笛:松田弘之
(休憩)
能 『羽衣』・和合之舞 (観世流 梅若会)
シテ(天女)梅若紀彰 ワキ(白龍)村瀬堤
笛:松田弘之 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井広忠 太鼓:徳田宗久 地頭:松山隆雄
去年中止になった企画。
ホールでのお能は、あまりない。今回は、舞台上に台を置いて、その三隅に半分丈の柱状のモノがある。台の周りには、電気の蝋燭。雰囲気作り。点灯は能の時。
金子直樹の解説は、的確。
仕舞3曲。舞はベテラン。『融』は小田切康陽に代わって角当直隆。『井筒』は、先日野村四郎幻雪最後の仕舞も同曲だったので、何だか、ズドンときた。今度お仕舞いを習うならば、この曲にしようかな。
狂言『鍋八撥』、3回目。前回のシテ浅鍋売りは野村萬・人間国宝。今回も人間国宝の野村万作。若者のアド羯鼓売りとの対立も一つの見どころなのだ。さまざま芸を披露しながら、争っていくけど、最後の床運動、側方回転が勝負の分かれ目。
アド羯鼓売りの野村裕基君は、おそらく二十歳前後。綺麗に側転しながら、幕を下がっていく。背が大きいから、五色の幕の枠にぶつかるのではないかと、心配するぐらい。さすがの身体能力。
対する90歳を超える野村万作。役の上でも年齢差がある設定だし、実年齢も70年の差。驚きだ。野村四郎幻雪の実の兄で、急死から2週間。万作も、何か、感ずるところがあったのではないか。鬼気迫るという感じでの、集中した演技。羯鼓売り孫の裕基の出番の時に、すっくと立ち続ける浅鍋売り万作。大きく目を見開いて、羯鼓売りの動きを見る。
なんだか、狂言を観ていて、じんとくるモノがある。
最後、腹に巻いた浅鍋を割ってしまうシーン。割れたことに拍手が起きるという客は、ホールだから仕方がないか。
野村萬斎もしっかりとだけど、裕基の溌剌とした若さと、円熟して凄みすら感じる万作の名演技でした。
期待で一杯の能『羽衣』。紀彰師の出番が待ち遠しい。
ほとんど詞章は暗記しているに近いから、梅若の謡本は持っていたけど、チラチラ見る程度。実は、この日に紀彰師が『羽衣』シテを演ずるから、逆に、謡のお稽古に『羽衣』を選んで貰った。こちらからのリクエスト。
時間等の関係で、一部省略することはよくあることだけど、初めの部分の、ワキとワキヅレの下げ歌、上げ歌がごそっと省略される。
おかげで、シテ天女の登場が早まる。
紀彰師が幕内から、「のう~」との声。う~ん、これだよ、これ。痺れる。
地謡は、3名2列。人数が少ないし、ホールだと空間が高いからか、声がずしんと腹に響かない。これは残念。習ったとおりの謡い方、少し囃子方が入ると違ってくる部分もわかる。やはり能舞台、能楽堂の方が良いよな、等とは贅沢な。
物着をして、天女ノ舞。美しい。が、ここでもクリ、サシが省略されたか。聞き所の謡なのだけど。
序ノ舞。ここで、引き続いて破ノ舞に移るのは、小書き「和合之舞」による。
要するに、今回の『羽衣』は、美しい舞が中心なのです。もともと舞が美しい曲なのだけど、更にそれが強調される。
「七宝充満の宝を降らし、国土にこれを施したもう」の部分。謡と、シテ舞の動きには背筋がゾクッとする。このキリは、紀彩の会でもお仕舞いを練習したこともあるし。こうやって舞えば良いんだと。
『羽衣』は7回目で、良くわかっているけど、これほどキチンと観、聞いたことはなかったなあ。感動しました。コロナの営業自粛で、感動を共有する時間が取れないのが寂しい。